ネパール
ネパール(3)・・ヒマラヤ Jan 2008
 雨の神 降臨
3日目
朝5時前に起床。遠足に行く小学生みたいに少しだけわくわくしている自分が恥ずかしい。そっと耳を澄ますが、いつまでたってもガイドが起こしにくる気配はない。カーテンを空け、外を見ると・・雪が降っている。山はもちろん見えない。曇って山が見えないのではなく、雪のベールで山が見えないのだ。吐く息はどこまでも白く、冷え切ったバラック風の部屋を更に寒々しくしてくれる。窓枠には1センチの隙間がありCO2中毒にならないよう配慮しているんだろう。でも、さりげなく隙間風が部屋に入り込んでいた。
一瞬だけ止んだ雪
諦めきれず、宿に居たおっさんに聞いてみた「もう少し待ってみたら、山が見えるのかな」おっさんは返事をせず、ただガン患者を見るような寂しい顔を私に向けるだけだった。

ガイドに促され、下山の開始だ。帰りの日程から逆算すると、今日中には下山してポカラまで行き、明日朝には出発しなければカトマンズ発の帰路便に間に合わない計算だ。当初はプーンヒルで日の出を拝んだ後に下山し、初日に泊まったヒレで一泊し、ポカラを素通りしてカトマンズに戻る予定だったのだが、これだと結局はヒマラヤを見れなくなってしまう。ポカラからでもヒマラヤを眺望できるので、かわいそうな私を哀れんで、ガイドがポカラでの一泊を急遽アレンジしてくれた。
「もう一泊すれば、間違いなくヒマラヤの山々を心行くまで・・。」ガイドの声を背にし、雪道を下る私。真っ白な雪に自分の足跡が残っていく、雪はまだ止まずロバの糞をきれいに隠してくれていた。
部屋から見る山登るも大変だが、降りるも大変だ。急勾配の石段を降りると自分の体重が一気に掛かり、膝が悲鳴をあげてしまった。雪で足元が滑り易くなっており、更に段差が見えなくなっていてなんとも心許ない状態だ。おまけに靴は濡れて染みてきた。体力のみならず精神的にも疲弊してしまった。手足耳は冷たいのだが、それ以外は暑く、背中は汗をかいてしまっている。暑いから脱ぐ、脱ぐと寒い、寒いから着る、着ると暑い・・。わけが判らなくなってきた。
下ること4時間半、一昨日の宿泊地ヒレで昼食。ここまでは、ほとんど休むこともなく一気に駆け下りたようなものだ。
焚き火で暖を取り、濡れた靴を乾かし、またも進軍開始だ。膝は益々痛くなり、先を歩くガイドとの距離は広がって行く。出発して間もなく、雪が止んだと思ったら今度は雨だ!

ダンプスのベースキャップしのつく雨の中、カッパはもちろん傘も準備していないので、濡れるだけ濡れてしまった。雨宿りしようにも、雨が止む気配は一向になく、先を急ぐしなかい。 ガイドは雨に濡れるのをいやがり、私を置いてどんどんとハイペースで下って行く。まるで駆け足をしているようなスピードだ。せっかく乾かした靴がまた濡れて気持ちが悪い。

やっとナヤプルの道路沿いに来た頃には、雨は本降りとなっていた。ポカラまで行くタクシーを待っている間にも濡れた服と汗をかいた身体がどんどん冷えてくるのがわかる。歩いていればそれなりに温まるのだが、じっとしていると寒さに拍車が掛かってしまう。

ポカラでは街外れに宿泊。はなから期待はしていなかったのだが、やはり暖房はなく、雨に濡れた靴を乾かすこともできない。シャワーは冷え切った身体を温める暑い湯が出るハズもなく、生温い水しか出ない。浴びたら浴びたて逆に寒さが増してしまいそうだ。これで三日間シャワーを浴びていないことになる。ゴレパニまで背負っていったシャンプーセットは結局使うことはなかった。

夕食中に、ガイドが慰めてくれた。「ここポカラでも、エベレストの山並が見えるんだ。部屋の廊下からも見えるんだよ。・・今日は見えないけどね。」

今日はちょっと遅めの9時就寝。久しぶりに都会?!に来たのと、煩わしい雨が止んだのでホテルの周辺を散策してみた。大人びた中学生にでもなった気分だ。

さて、寝ようかとブランケットに潜り込み、電気を消した瞬間に聞き覚えのある音がしてきた。それもだんだんと大きくなってきた。・・雨だ。
まぁ、この雨も止み、明日はきっと晴れるだろう。
すると、今度は遠くから聞き覚えのある音がしてきた。・・雷だ。えっ雷、それも冬に?!

4日目
今日も夜明け前に起床。だんだんと早起きの習慣が身に付いてきたようだ。しかし、いつもと違う。ベッドから起きようとするのだが、まるで金縛りに遭ったような感覚だ。筋肉痛で脚が痛い。これ程の筋肉痛は今までに経験がない。いつしか、運動した後は、その日ではなく翌日、更には翌々日になってしまうように・・。
これが悲しい現実だ。
ポカラのバスターミナル昨日のガイドの話に胸と鼻を膨らませ、夜明け前のまだ暗いオープンテラスのバルコニーまで脚を引き釣りながら行ってみると、今日もなーんにも見えない。昨夜の雨が原因で夜明けが遅いのだろうか。思えば、私が何か行動しようとすると、何故か決まって雨が降る。たまの家族旅行では傘が欠かせず、好きな釣りに行こうと釣り船を予約すると、6月にも関わらず季節外れの台風がやって来たりと、何故か雨に見舞われてしまう。
早朝のバスターミナルもまだ薄暗く、発車を待つバスと取り囲む人々しか見えない。「いつもなら向こうにエベレストの山並みが見えるんだ。」ガイドが指差す方向には、ただ曇り空が広がるだけだった。

時刻は7時。バスが発車する頃になると明るくなりはじめ、いつしか山の稜線が見えてきた。あと10分いや5分もあればクッキリと稜線を確認することができそうだ。これでやっと念願のエベレストが眺望出来る!ネパールまで来て良かった。・・と思った瞬間、バスはこれからの7時間の道のりに向けてゆっくりと、しかし確実に離れていった。

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