特集 「なるせの清流とみどりを守る会」

目次

(1) 地元に『成瀬ダムの見直し・中止を』の看板現る!
(2) 富田事務局長に聞く
    付録 
「成瀬の水とダムを考える会」事務局長、今後の展望を語る
(3) 国土交通省への成瀬ダム建設に関する要望と質問書
(4) 秋田県知事への成瀬ダム建設に関する要望と質問書
(5) 関連文書
      
秋田弁護士会の「成瀬ダム建設計画の見直しを求める意見書」
      
環境庁(当時)への要請文


地元に『成瀬ダムの見直し・中止を』の看板現る!

東成瀬村田子内地区、国道342線わきに

清流を奪うダム建設に強い危機感がうかがえる

 


富田事務局長に聞く

 

−−私たちの会はいろいろと貴団体にはお世話になっており、大変有り難く思っております。成瀬ダムの公示という新しい局面にあたり、どのようなことをお考えか、お聞かせください。

 私たち「なるせの清流とみどりを守る会」としては、行政側が「成瀬ダム、ゴー」というお墨付きを得たとしても私たちの疑問が依然として消えない以上、引き続き啓蒙と活動を続けていく決意です。会の名前にあるように、この
東成瀬村の誇れる清流を守ること、またみどり豊かな森林資源を継承していくことはこの村の命だと思っています。

−−最近、国土交通省と秋田県知事あてに「要望と質問書」を出されましたね。

 11月19日付けで両方に提出しました。国土交通省には九項目にわたり、秋田県知事には五項目にわたっています。最近の事態はますます成瀬ダムの根拠に疑問を感じさせるものばかりですから。

−−東成瀬村の人々は清流へのこだわりが強いですね。

 
全国町村会がアンケート調査しているんですが、約80%の町村が「豊かな水、きれいな水を残したい」と回答しているんですね。日本の農山漁村の原点ではないでしょうか。私たちの成瀬川は有形無形に様々なものを私たちに与えています。その清流が濁ってしまうことは到底許せないことです。これは全ての村民に共通の意識だと思います。この夏に横手地方で大雨が降りましたが、山内村の大松川ダム下流の落合地区合流点でははっきりと濁りの差が出ました。大松川ダムは最新の選択取水設備を備え付けているわけですが、それでも濁りを解消することは出来なかった。私たちは、大雨の後連続的に観察に出かけたんですが、日を追うごとに2つの川の濁りの差がハッキリしてくる。一方の川が澄んできているのにダム側の川は依然として濁っているということが続きました。毎日あそこを通る村民の方からも報告がありました。

大雨の後まもない落合地区合流点
(左がダムのある松川、右がダムのない黒沢川)

数日後の同合流点。右から流れる黒沢川には清流が戻っているが・・・。(左は「守る会」会長の柳氏)


−−私たちはダムのある皆瀬川の実態を調査しておりますが、年々ひどくなっているように感じます。成瀬川との合流点では一目瞭然ですから。

 ええ、全国どこでもそういう話です。隣の山形県の
寒河江ダムを視察したときも漁協の方々が嘆いていました。ダム河川の濁度問題については国土交通省も研究しているはずで、国民に正直に公表する責任があると思います。

−−ところで、この夏国道342号線わきに「成瀬ダムの見直し中止」の立て看板を立てられましたが、反響の方はいかがですか?

 前から立てようと思って今回実現したわけですが、清流を守りたいという良識ある村民にとって好意的な反応が寄せられているようです。看板の文言についても慎重に検討しまして、多くの村民の共感がえられるようにしました。

−−とてもいいですね。村に入るたびに私は励まされています。

 みどりを守るという環境面についても、昔から私たちは周りの山々から多くの幸をいただいてきました。ダム湖になる森が消え、付替道路が森を切り裂くことによって私たちが予想できないような環境面の資産や山の幸を失うことになると思います。

−−この秋、予定地周辺では測量のための基準点確保のために大規模な樹木伐採が行われましたね。

 私たちも何ヶ所か確認していますが、ひどいもんです。クマタカの巣に近かろうが、平気で切っている。そもそもあの地域は本来「
森林生態系保護地域」となるべき所です。去年はブナの実などが豊富で今年にかけて森の生き物たちが多く繁殖したものと思われます。今年もクマタカやイヌワシなどの飛来が頻繁に観察されました。私たちは共同で猛禽類や森の動物たちを守る活動をしていく必要があると思っています。

−−はい、いっしょにやっていきましょう。また、今回の質問書でも触れていますが、栗駒から流れてくる強酸性の赤川の水がダム湖や周辺に与える影響も心配ですね。

 もともと北ノ俣沢は天然イワナの宝庫でした。マンガ「釣キチ三平」のイワナ編の舞台とも言われています。最近心無い釣り客などの影響で個体数も減っては来ていますが、ダム湖が沢に食い込むことによって大きく魚の環境が変化せざるを得ないのではないかと心配しています。

−−最近、ダム事業の先駆けとしてこの岩井川地区の342号線バイパス工事が始りましたが。

 
ダム工事のための工事車輛が通るためには必要ということなんでしょうが、実際はダム堤体の岩石も現地調達ですから一旦始れば工事車輛が頻繁に行き交うということはないでしょう。まあ、成瀬ダムの工事がもう始まったんだという世論づくりの意味合いが強いですね、実際は村民にとっては生活道路そのものですよ。

−−工事といえば、巨大ダム建設が大手ゼネコンの談合で仕切られていた、というようなニュースもありましたね。長野県の浅川ダムでも住民団体が問題にしているようですが。

 ええ、この成瀬ダムに関してもその内部文書によればすでに「
西松建設」がやることになっているそうです。「本命企業」がこれまでも次々と落札しているとのことですね。まさに「先に建設ありき」のダム事業が明かになったわけで、この美しい自然が「ゼネコン&政官界」の汚れた手で破壊されていくということに憤りを感じます。成瀬ダムの見直し・中止を求めて運動を強めていきたいと考えています。

−−これからも生活に結びついている「清流とみどり」を守るために一緒に頑張っていきましょう。
今日は忙しいところどうもありがとうございました。(文責:HP管理者−−奥州光吉)


「成瀬の水とダムを考える会」事務局長、今後の展望を語る(毎日新聞紙上で)


国土交通省へ

大きな問題を積み残したままのダム建設強行の見直しを
成瀬ダム建設に関する要望と質問書

          平成13年11月19日
                                        なるせの清流とみどりを守る会
国土交通省東北地方整備局湯沢工事事務所
所長 高橋定雄 様


 (前文省略)

 (要望・質問事項)

一、成瀬ダムの建設目的にかかげられている水道用水については、大王製紙の進出中止で余剰となった玉川ダムの用水利用が可能な状況展開となっています。県と協議をすすめ、成瀬ダムに水源を求めている仙北地区の自治体の利水計画については、玉川ダムからの用水転換をはかるよう、現実的な対応を機敏にとってほしいと思います。

二、成瀬ダムによる治水計画は費用対効果の点で大きな疑問が依然として残されています。ダムに代わる築堤とその嵩上げなど、これまで貴省が示している代替え策のいくつかについて、費用対効果の点で成瀬ダムとの数的比較を示した内容は明らかにされていません。全国的に建設が中止などとなった都道府県直轄の補助ダムでは、その理由について費用対効果という点でダムよりもその代替え策が重視された結果という事例もあります。ダムの基本計画が告示された現在、成瀬ダムについても一般的な代替え策の言及だけでなく、治水についての代替え案とダムとの具体的な比較数値を示されることを求めます。
 そしてその比較数値のなかで、河道拡幅や築堤、および堤防嵩上げなどの代替え策については、どの箇所でどれだけの延長距離を算定根拠にしているかも説明いただきたいと思います。
 なお、成瀬ダムにかかわる治水計画でよく引き合いに出される雄物川下流部の氾濫箇所については、ダムに代わる治水計画が合理的であり、代替え策を検討導入されるよう再度求めます。

三、去る8月30日付の政党機関紙「赤旗」紙上に、全国のダム工事をめぐる談合問題の記事が掲載され、そのなかで今後発注が予想される予定の成瀬ダムについても、特定の建設会社が落札予定企業として会社名まで挙げられ報道されています。これは公共事業とりわけダム建設が、建設目的は二の次で「ダム建設先にありき」を証明したひとつの客観的事実であり、何年の先のダム工事を受注配分するということで独占禁止法違反の疑いも濃厚です。公正取引委員会と連携をとられて、公共事業にまつわる重大な問題としての談合疑惑について、厳正な調査と適正な措置がとられることをのぞみます。

四、成瀬ダムの調査対象区域内で発見されたクマタカの営巣場所は湛水区域から数十メートルという情報があります。イヌワシ等も含めて同地域の猛禽類などの希少野生動物種の固体レベルの保護にとっても、生育環境の保全にとってもダム建設がこれに与える影響は大きく、この点からも建設計画の見直しを求めます。

五、全国の既設ダム事例のなかには、ダムによる洪水後の河川の濁り長期化が重大な問題になっているところがあります。県内においても、山内村大松川ダムのように最新の選択取水設備を備えながらも河川の濁り長期化が生態系と景観に甚大な悪影響を与えている事例が発生しています。成瀬ダムについても同様の事態発生が強く懸念されており、規模の大小に関わらず降雨によってダム湖上流が濁った際のダム湖とその下流部の濁り長期化は、村の最も貴重な宝である清流景観とそこに棲む生態系の破壊を招くことは想像に難くないところです。
 成瀬ダムに関する環境アセスでは、選択取水設備によって濁りを軽減できるとしていますが、小規模であっても川を濁らせるほどの降雨が夏期には数回発生しているのが成瀬川流域の通例であり、ダムによって濁り長期化が現実のものとなることはほぼ確実です。したがいまして、濁り長期化が絶対に生じないという科学的根拠とその保証を示してほしいし、濁り長期化が生態系に与える影響についても環境調査の実施を求めるものです。

六、県営の皆瀬ダム、大松川ダムの濁り長期化について、ダム湖そのものの濁度変化と、ダム下流河川の通常時と降雨により河川が濁った際の濁度の比較と変化についてそれぞれ調査内容を把握していると思われますので、内容も知らせてほしいと思います。

七、ダムサイト予定地は、地質構造上極めて不安定な箇所と言われ、破砕帯の存在可能性を指摘する識者もいます。事実であれば、ダムの危険性とともに予定を上回る工事費の投下によりさらなる国費、県費、受益者の負担増が生じることになります。地質構造についての調査で、ダム建設に及ぼす構造上の問題とそれに関わる工事費予想について、現段階で貴省の判断はどうなっているのか明らかにしてほしく説明を求めます。

八、ダムによってせき止められる赤川は強酸性の水質であり、ダムに湛水されることによってダム湖全体の水質変化が環境に及ぼす影響も懸念されますが、これについて現時点では、どのような見解をもっているのかうかがいます。

九、国道342号岩井川バイパスの着工式が先に行われましたが、いつのまにかダム下流部の工事用道路としてこのバイパス工事が位置付けられています。ダム工事による通行車輛の増加対策などがダム下流部工事として位置付けられた最大の理由とされていますが、同バイパス地点の現在の通行車両数とダム工事による通行車輌数などの比較をどう見ているのか、また先に行われた同バイパスの着工式と祝賀会にはそれぞれどれだけの費用支出があったのか、支出明細とともに支出の負担元はどこで、どういう名目で行われたのか、祝賀会の案内元はなぜ期成同盟会であったのかも説明してほしいと思います。

 (以下略)


秋田県知事へ

大きな問題を積み残したままのダム建設強行は中止するよう国にはたらきかけを
成瀬ダム建設に関する要望と質問書

        平成13年11月19日
                                   なるせの清流とみどりを守る会

秋田県知事
寺田 典城 様


 (前文省略)

 (要望・質問事項)

一、成瀬ダムの建設目的にかかげられている水道用水については、大王製紙の進出中止で余剰となった玉川ダムの用水利用が可能な状況展開となっています。国や成瀬ダムに利水計画をもつ団体と協議をすすめ、成瀬ダムに水源を求めている仙北地区等の自治体の利水計画について、県は玉川ダムからの用水転換をはかるようにし、現実的な対応を機敏にとるよう国にも要請してほしいと思います。

ニ、成瀬ダムの調査対象区域内で発見されたクマタカの営巣場所は湛水区域から数十メートルという情報があります。イヌワシ等も含めて同地域の猛禽類などの希少野生動物種の固体レベルの保護にとっても、生育環境の保全にとってもダム建設がこれに与える影響は大きく、この点からも建設計画の見直しを求めるよう国にはたらきかけてほしいと思います。

三、全国の既設ダム事例のなかには、ダムによる洪水後の河川の濁り長期化が重大な問題になっているところがあります。県内においても、山内村大松川ダムのように最新の選択取水設備を備えながらも河川の濁り長期化が生態系と景観に甚大な悪影響を与えている事例が発生しています。成瀬ダムについても同様の事態発生が強く懸念されており、規模の大小に関わらず降雨によってダム湖上流が濁った際のダム湖とその下流部の濁り長期化は、村の最も貴重な宝である清流景観とそこに棲む生態系の破壊を招くことは想像に難くないところです。
 成瀬ダムに関する環境アセスでは、選択取水設備によって濁りを軽減できるとしていますが、小規模であっても川を濁らせるほどの降雨が夏期には数回発生しているのが成瀬川流域の通例であり、ダムによって濁り長期化が現実のものとなることはほぼ確実です。したがいまして、濁り長期化が絶対に生じないという科学的根拠とその保証を国が示されるよう要請してほしいし、濁り長期化が生態系に与える影響についても環境調査の実施を国に求めてほしいと思います。

四、皆瀬ダム、大松川ダムの洪水後や降雨による出水後の濁り長期化について、ダム湖そのものの濁度変化と、ダム下流河川の通常時と降雨により河川が濁った際の濁度の比較と変化についてそれぞれ調査内容を把握していると思われますので、内容も知らせてほしいと思います。
 また、大松川ダムについて、最新の選択取水設備があるのになぜ洪水・出水後の下流河川の濁り長期化が昨年、今年と連続して問題になっているのか、その理由と今後の対策についても知らせてほしいと思います。

五、ダムサイト予定地は、地質構造上極めて不安定な箇所と言われ、破砕帯の存在可能性を指摘する地質学者もいます。事実であれば、ダムの危険性とともに予定を上回る工事費の投下によるさらなる県費の負担増が生じることになります。この地質調査のことについても、現段階での調査内容の公表を国に求めてほしいと思います。

 (以下略)

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