2000年夏・成瀬川せせらぎ日記 (前)
 

 木もれ陽ゆらめく森を,セミの多重奏がつつみこむ。
 涼味あふれるせせらぎで,いきいきと跳ね回る子どもたち。
 妖しく輝くエメラルド・グリーンの淵には,カラフルなジャケットのカヌーイストたちが。

 光と風と水が四季を織りなす北東北の田舎に,短い夏が訪れ,そして去っていきました。
 かざらない本当の自然のなかで,つかの間の夏を過ごした子どもたちの瞳を,成瀬ダムの“有用性”を信じて疑わないみなさまへ捧げます。(樋渡)

水面に映る空の青さがわかりますか?

 

 ☆月♪日 成瀬川沿いの河川公園。10人ほどのカヌーイストたちの姿。秋田県南在住者を中心にしたカヌー愛好家団体「KAPPARI CLUB」のメンバーだ。色とりどりのカヌーを河原に並べて,準備を整えている。彼らにとって成瀬川とはどんなフィールドだろう。30代前半のメンバーに話を聞いた。
 「俺たちは普段は中仙町の玉川で遊んでいるんだけど,ここ成瀬川はかなり上質なフィールドですよ。玉川と違って水に臭みを感じない。体を洗う必要もない。ただ,大雨の増水と夏場の渇水があるから,ここでは今時分しかできないんです。
 本当は成瀬川全域で楽しみたいんだが,アユ釣りの人や漁協に嫌われがちなんで,この公園のわずかな区間でしか遊べない(注・成瀬川漁協はダム建設に賛成している)。 皆瀬川? あそこは極端な話,U字溝だすべ。俺たちは濁りとか水の汚れにはあまりこだわらないけど,あんな人工建造物の多い川でなんか,とてもカヌーを繰り出す気にならない」

   
 ☆月♪日 東成瀬村椿川のオートキャンプ場下の河原。渓谷の陽だまりでスケッチしていると,上からキャンプ客が降りてきた。岩手から来たという3家族。数人の子どもたちは水着姿に浮き輪を抱えている。プールでも海でもない,流れのある川で泳げるのがうれしくてたまらないといった感じ。お母さんの一人に「この川にもうすぐダムが造られるんです」というと「えっ,そうなんですか…」と絶句していた。

 
☆月♪日 キャンプ場下の河原。神奈川から来たという父娘3人連れ。中学1年生のお姉ちゃんはアブの襲撃をものともせず河原を駆け回って淵に飛び込む。お姉ちゃんが何かを捕まえた。両手ですくい上げて水槽に放したのはカジカの稚魚。「素手で捕ったの?」「うん!」
 お父さんの話。「魚の姿はあまり見ないようですが,ここはきれいな川ですね。…ダムが造られることは知っています。上流の方で整地していたのを見たから。こんなきれいな川なのに,影響が心配ですね」

私の向けるカメラにも、とびきりの笑顔で・・。

12歳という。笑顔の可愛らしい子だった。

 

手にしている網は魚を捕るためではない。
お父さんに襲いかかるアブを撃退するため。

 

 ☆月♪日 増田町真戸。平鹿町から「犬を遊ばせに来た」という母子3人。お姉ちゃんが川に枝切れを投げ込むと,真っ黒い大型犬は勇んで急流に飛び込む。50メートルほど流されるが枝切れくわえて意気揚々と戻ってきた。繰り返し枝を放り犬も飛び込みほーいほい。

ジャンプという名のレトリバー犬。
棒を流れに放ると、
大喜びで川に飛び込んで回収に向かった。

 

お姉さんに抱かれている子が半ベソなのは、
ジャンプが怖いから。

 

 ☆月♪日 キャンプ場下の河原。岩手からのキャンプ客。8歳の女の子は流れが怖くて浅いよどみで水に浸かってばかり。20歳くらいのお姉ちゃんがむこう岸に渡ったのを見て「あたしもそっち行くー!」と叫ぶ。でも瀬に足を踏み出せない。しょうがないので私が川の中央部まで手を引いてやった。そこから一人で岸にたどり着いたのはいいが,お姉ちゃんもろともアブの猛攻を受けて悲鳴をあげている。結局連れ帰るはめに。

妹さんはほどよく日焼けしているけど…。

 

あまり日焼けしていないお姉ちゃんは、
今年は水着になる機会が少なかったらしい。

 

 ☆月♪日 河川公園。東京から東成瀬の実家に娘夫婦と孫を連れて里帰りした男性の話。
 「私が子どものころ,この辺りからずっと上流まで私たちの川泳ぎの場所だった。いろんな魚がいた。ウグイとかカジカとか。夜にカンテラ箱を浮かべてカジカをヤスで衝いたりした。たまにヤマメなんかが捕れるとうれしかった。
 マスを放流するようになったから,カジカが食われたんだろう。さっき浅瀬をのぞいてみたが,カジカの姿はなかった。あの当時アユはいなかった。吉野鉱山のせいだろう。昔はサケも上ってきたと聞いた。
 あのころの川の水は,本当にきれいだった。こんなものではなかった。水量も豊富だった。成瀬ダムの話ができたころから,私はダムにずっと疑問を感じていた。山が荒れていく一方なのに,巨大ダムなんか村にとって何の利益があるのか。(『成瀬の清流とみどりをまもる会』の)柳さんは私より3歳ほど年上です。こっちに帰るたびに私は村人にダムのことを聞くのだか,なぜだれもダムに反対しないのだろう。村人はダムを必要と思っているのだろうか」

川で泳ぐのは初めてらしい。
泳ぐどころか、瀬に足を踏み入れるのもビビっていた。
小学2年生。

右の2人が姉妹。
ハーフの子は、一緒にキャンプに来たおともだち。

 

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