アメリカはなぜダム開発をやめたのか」を編集発行された

公共事業チェック機構を実現する議員の会」元事務局長

高見裕一さんに聞く

■私達「成瀬の水とダムを考える会」では、成瀬ダムを考える上で高見さんが議員時代に中心となってまとめられた「アメリカはなぜダム開発をやめたのか」を大いに参考にしております。「議員の会」をはじめられたきっかけ、思いをまずお話しいただけますか?

 国会議員に当選して1番やりたかったことは、「環境立国日本を造る」というテーマへの取り組みです。日本国の、最大の環境破壊原因のひとつである「公共事業」にメスを入れることは、大変意味のあることだと考えました。
 また、日本の政治のレベルが低いのは、有権者の、納税者としての意識の希薄さがあると考えておりましたので、巨額の税金が使用されている公共事業を、市民・国民の手に取り戻そうとする努力が、政治のレベルアップにもつながり、有権者自身の民主主義教育にもなると考えたからです。
 当初、その無駄な公共事業のシンボルとして、長良川河口堰の問題を取り上げました。
 が、大変な抵抗に合い、激闘を続ける中で、単に個々の無駄な公共事業を告発、反対するよりも、社会システムとして、無駄、且つ、無益な公共事業をストップさせる仕組み、そのものを作ったほうがより現実的であり、有効であると考えるに至りました。そこで、「公共事業チェック機構を実現する議員の会」の旗揚げをしたわけです。

■公共事業にチェック機構が必要という思いのなかで、なぜおもにダムにターゲットを当てられたのでしょうか?

 計画されたら必ずやらねばならないという、公共事業のおぞましいルールが、最も強烈に守られ、且つ、人目に触れない山奥で人知れず、誰もが知らないうちに日本の山河が食い散らかされていく状況に、大変強い危惧を感じたからです。
 金額的にも、河川局の予算は大変巨大であり、河川局の構造改革が出来れば、他に与える影響も大変大きいと思いました。
同時に、世界の潮流が、「大規模ダム不要見直し論」になりつつあったことも、重要なポイントです。

■実際にアメリカに視察に行かれたと思いますが、そこで印象深かったことは何だったのでしょうか?

 一言で言えば、「過ちは過ちとして認め、正していこう」というしなやかな民主主義の力を感じることができた、ということです。実際の視察日程は下表のようになっていました。

詳しくは「アメリカはなぜダム開発をやめたのか」を読んでいただければ、私たちが何を学んだか、良くお分かりになると思います。

■「アメリカは変わった、あるいは変わりつつある」、しかし、日本の行政の場合は変わりつつあるのでしょうか?

 表面的な変化はこの間の、市民・政治両方の運動の中で、いくつか勝ち得たものがあると思います。しかし、本質的な部分での変化はまだおきていないと判断するべきであろうと認識しております。
政治が変わらないことには、行政は変わらないのです。
政治を変えるためには、国民やジャーナリズムが、変わらなければならないのです。そこが変わっているとは、私には思えません。

■「議員の会」は今どういう状態でしょうか?その精神はどのように受け継がれてきているのでしょうか?

 よく頑張ってくれていると思っています(活動の一例)。
が、NGOの未熟さもありますし、地域のしがらみから、中々開放されない日本の政治状況もあります。

諫早の現状長良川等でその後進行している事態をどのようにとらえていらっしゃいますか?

 官僚達の誤った思想と、ほとんど捏造(ねつぞう)ともいえる情報操作が、馬脚を現わしつつあると見ています。

■高見さんは結局は「納税者である国民が変わらなければならない」と訴えておられますが、今住民の人たちに訴えたいことは?

 一言で言えば「セブンスジェネレーション」
 これは、ネイティブアメリカンのホピ族の言伝えです。
 何か物事を決める時には、自分達の目先の欲望だけにとらわれることなく、7世代先の子孫にどう言う影響があるのかという事まで、深く洞察する配慮がなくてはならないと言う意味です。
 また、政治にかかわることをいろいろ揶揄する風潮がこの国にはありますが、1人1人の国民が国造りに参加するというのが、本来の民主主義の真骨頂です。
 税金を納めるまでは、脱税まがいの節税行為に躍起になっているが、納めた後はどこかの偉い人にお任せという、御上頼みの国民体質をチェンジしなければいけないと思います。

 日本の山・川はこのままでは、取り返しの付かない状況になってしまいます。

■わたしたちの思いもおなじですが、どういう視点で頑張る必要があると思っていらっしゃいますか?

 市町村・県会・国会 各議会へ意識のある人々が立候補されるべきです。
 「ごまめの歯ぎしり、犬の遠吠え」では何も変わりません。
 「歩かない足に泥はつかない。」
泥まみれになっても、時代を切り開いていこうとする意志を持った市民を何人持てるかが、その国の将来を決定づけるでしょう。
行政は政治の僕(しもべ)であります。
この国の動いている仕組みを深く洞察されて、ツボを押さえた活動を展開していただきたいと思います。

■現在活動されている「日本環境財団」について一言お願い致します。

 「世界と未来との共生をめざして」
それが、日本環境財団のフィロソフィーです。
 現実の社会の中で通用する、まっとうな代案提示を具体化していこうと努力しています。環境問題に対して、本気で汗を流してやろうと考えていらっしゃる方と、より多く出会いたいものです。

■ご活躍をお祈り致します。ありがとうございました。

文責:ホームページ管理者・奥州光吉


北米視察スケジュール

「新たなる河川管理の潮流を学ぶ」

◎ワシントンDCでの二日間の集中的な勉強会(1996年4月30日・5月1日)

第一日目
テーマ:米国の大規模河川開発はどのように転換したか
会 場:内務省開墾局 会議室
司 会:リチャード・フォレスト全米野生生物連盟東アジア局長
ご挨拶:スティーブ・マグナセン開墾局総裁代行
     リチャード・アイヴス開墾局国際部長代行
メッセージ:ダ二エル・P・ビアード前開墾局総裁

1 開墾局のケーススタディー
  オーバンダム(建設中止)

  講師:マイケル・ジャクソン氏 開墾局中部太平洋地域担当
  グレンキャニオンダム (環境回復のために水門開放)
  講師:ライラス・リンデル氏 開墾局コロラド上流地域担当
  NGOのコメント:ロン・ストルク氏 アメリカンリバーズコーリション 保護ディレクター
2 陸軍工兵隊のケーススタデイ(陸軍工兵隊は米国の治水政策を担当)
  ミシシッピー川洪水防御計画の教訓
  講師:ハリー・キッチ氏 陸軍工兵隊 中央計画管理局長
  講師:マイク・口ビンソン氏 FEMA災害緩和プログラム責任者
  NGOのコメント:デビッド・コンラッド氏 全米野生生物連盟 水資源問題スペシャリスト

3 テネシー川流域開発公社(TVA)のケーススタディー(東部諸州の利水開発を担当)
  最新の河川管理の概要
  講師:口バート・ハーブスト氏 TVAワシントンDC代表

4 節水対策に関する米国の経験
  講師:エド・オーサン氏 省エネルギー経済のためのアメリカ会議 政策アナリスト(元開墾局政策ディレクター)
  講師:シンディー・ディバラ氏 開墾局イシューマネジャー

5 ダム撤去のケーススタディー
  エルワー川 エルワーダム・グラインズキャニオンダム撤去
  講師:ショーン・カントレル氏 地球の友(NGO)米国北西部河川プロジェクトディレクター

第二日目
午前のテーマ:国際機関における最新の大型河川開発政策
会 場:全米野生生物連盟 会議室

開会の言葉
全米野生生物連盟 リーン・グリーンワルト副代表(元内務省漁業・野生生物局長)

1 世界銀行の開発計画における環境問題への取り組みについて
  講師:ロバート・グッドランド氏 世界銀行環境部 環境スペシャリスト
2 ブリーフィング 中国三峡ダム計画の現状
  講師:ミッシェル・チャン氏 地球の友(NGO)政策アナリスト
3 世界銀行のダム開発計画における調査委員会について
  講師:リチャード・ビッセル氏 世界銀行インスぺクションパネル委員
  講師:デビッド・ハンター氏 国際環境法律センター(NGO)弁護士

午後のテーマ:政策決定と議会の役割、公共事業の監視に関連する諸法律
会 場:大統領府 環境の質委員会室
ご挨拶:ウィリアム・ハワード全米野生生物連盟会長

1 議会調査サーピス機関(CRS)の役割
  講師:べッツィー・コディー氏 CRS天然資源政策スぺシャリスト

2 政策決定に関与する法律:情報の自由法・国家環境政策法、市民の訴訟条項
  講師:ダイナ・べアー氏 大統領府・環境の質委員会委員
  講師:口バート・ドレール氏 シエラクラプ法律防衛基金(NGO)弁護士
3 議会スタツフによるブリーフィング
  スティープ・ラニック氏 下院・天然資源委員会スタッフ(ミラー下院議員政策スタッフ)
  ダン・デリッチ氏 上院・環境と公共事業委員会スタッフ(チャフィー上院議員政策スタッフ)
  ケン・カポシス氏 下院・運輸(と基盤整備)委員会スタッフ
◎現地見学(五月二〜七日)
 五月二日 開墾局サクラメント支局訪問 オーパンダムに関するブリーフィング
    オーバンダム見学
地元河川保護NGO「アメリカンリバーズコーリション」とミーティグ
    SMUD(サクラメント市公益事業区)理事とミーティング
 五月三日 三峡ダムの問題点を中国内で初めて告発した本『長江 長江』の著者、ダイ・チン女史と会談
    インターナショナルリバーズネットワーク(NGO)とのミーティング
 五月五日 「ミューアの森(国定記念物)」見学
 五月六日 開墾局グレンキャニオン環境調査責任者デビッド・ウェグナー氏からヒアリング
 五月七日 グレンキャニオンダム見学 案内:ダム運用部長ディック・ホワイト氏

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