秋田県知事への申し入れ

                                 平成12年5月31日
秋田県知事 寺田典城 様

                               成瀬の水とダムを考える会

    国直轄の成瀬ダム基本計画策定への知事意見の際
      その事業の緊急性必要性に欠けている事実について
        知事の適切なご判断をお願いすること

 知事におかれましては、日頃よりわたしたち成瀬川流域住民の安全と生活向上に、不断の御努力をいただいていることに、深く感謝の念を表します。
 また知事は登山愛好者でもあり、環境行政には市長時代から卓抜した先見性と手腕を発揮してこられた方と聞いております。
 さて、かねてよりの国直轄事業「成瀬ダム」基本計画策定作業も、最終段階に入りました。地域住民の目からすれば、この計画には多分に無理や無駄が目につき、また、この事がひいては県の財政や行政サービスにも、大きな影響を及ぼすのではという心配をしています。基本計画には「知事意見」が添えられると聞き、県民の心配に答える適切なご判断をお願いします。
 以下、別紙にその要旨を述べましたので、よろしくご検討をお願いします。
なお、文書内容で不明の点がございましたら、下記事務局までお問い合わせください。
(事務局)019-0504 十文字町下佐吉開 28−13 熊 沢 文 男


[別紙]

  成瀬ダム建設計画は20年前(皆瀬ダム・用水路運用開始時)
     すでにその基本的必要性は満たされ
        おどろくほど無駄と破壊に満ちた計画です
          現在の事実に基づいた基本計画への
             知事意見を県民として要請します

1.このダムの洪水調節能力は、雄物川水系全体としては、きわめて非効率的なものです。それは集水面積が同一水系玉川ダムの1/4弱しかなく、かつ夏季の当該集水域降水量が、同じく玉川ダムの流域に比べ、半分以下であるというにもかかわらず、当初見積コストが秋田県内最大だという事実です。気象統計の事実は言うに及ばず、事業計画そのものに洪水調節機能をもたせることに、衆人は大きく疑問を抱いております。
 また、終戦直後の大洪水発生時とは、水源地の状況、平野部や都市部の状況は大きく変化しました。日本の歴史上かってないほどの変革、昭和大造林事業の進展、そして現在の林業不況と森林の環境や土地保全機能重視への転換と、この問題は投資目的やその方向が現在大きく変化しつつあります。
 一方平野部都市部は水循環軽視の開発の結果、都市型洪水の発生が増えつつあり、都市にこそダム構築が必要という皮肉な結果をまねいています。
 一方では、雄物川流域既開発ダムの洪水調節能力は、すでに大きなものとなっています。湯沢工事事務所の計画では、さらに現在と同じだけの容量のダムを開発しないと、洪水調節計画は達成されないと言います。もう50年、同様のダム建設をつづけ、そのころには既存ダムの下にまたダムをつくるという、永久にダム建設と山林破壊をつづけるのが建設省の計画です。

2.このダムは、実質的には農業用水ダムです。しかもその計画は、終戦直後の干ばつ被害を、ストレートに推進者は引き継いで強弁しています。
 本当の事実は、東北農政局で毎年発表している「秋田県農林水産年報」の戦後50冊弱のデータに示されています。最近の干ばつ被害は、最大でも、終戦直後の頃の10分の1程度となり、かつ被害量が僅少ゆえに、ここ十数年、水稲被害統計項目から削除されています。
 この間、皆瀬ダムの完成、3割減反などもあり、さらなる用水確保策は、茶碗1杯の水需要に給水車を出動させるようなものです。
 農家負担なしとはいえ、この計画にかかわる水路基盤整備事業に対して、多くの農家がその必要はないと言っています。現在進行中の1ha田整備事業の負担もあり、3割減反米価切り下げの中、このまま計画がすすめば、自分たちは田んぼを取られてしまうだけという危機感にさいなまれています。
 当地は、昨平成11年、全国的大干ばつだった平成6年に匹敵する水枯れの年でした。しかしその干ばつ被害はどうだったでしょう。もちろん農家はそれなりの努力をしました。ある農民は言っています。「この手間賃を全額政府が払ったらどうだろう。百年分でもダムの1%にもなるまい。」
 政府は水対策に対して、農家個人には1銭だって払いません。しかし株式会社ならその何百倍でも惜しみなく支払うでしょう。

3.このダムにかかる上水道需給計画中、その主たる量は当該流域にかかる増田町・十文字町・平鹿町に関するものです。この3町は現在地下水を水道用水の水源としていますが、夏季の不足は実質的に存在せず、将来とも確保が保証される状況です。(奥羽山系のリンゴ耕作地帯、数集落の夏季地下水不足は、平地部の豊富な地下水の供給で、即時に解決可能です)
 問題は冬季の地下水不足傾向ですが、地下水函養や伏流水開発で十分資源量は確保の見込みです。(事業者は故意にか、このような代替え案の検討をしようとしません) コスト面でもこの方がはるかに有利です。
 しかも需給計画は人口予測、供給戸数予測、1人1日当り給水量予測などいずれも過大の疑いが濃く、実績値の推移と整合性がありません。
 したがってそのためのダムの必要性はなく、かつ該当町村の財政的負担能力からいっても、将来をふくめてダム以外の方法が現実的と思われます。

4.ダム計画予定地は、白神山地に匹敵する自然度の高い場所であることが、建設省や民間の環境調査で明かになってきました。この自然は、県民の貴重な財産であるばかりでなく、人類全体のためにも、私たちはその維持に努力すべき地域とおもいます。昨年は知事の現地視察もありましたが、破壊の進んだ国道周辺だけを事業計画当事者は案内するのみでした。賢明な知事は十分にそのことにお気付きのことと存じます。
 とりわけ理解出来ないのは、クマタカなど絶滅危惧種である猛禽類類などの繁殖への影響の可能性が、国内では権威ある組織から指摘される中での事業推進であり、調査も終わっていません。生態系保護地域との重複地域の取扱もまた、わたし達流域住民にたいしては、非公開の霧の中で進められているという事実も無視できません。

5.国も地方自治体も財政的逼迫に苦しむ今日、このようなダム建設の緊急性や必要性はなく、さらに効果対費用の点でもまったく配慮のない事業計画です。
 特定多目的ダム法では、利水の費用分担について、特に農業用水については、慣行的に県などの負担となっているのが一般的と聞きます。そうであるならば、これは実質的に県民負担だということです。しかし、一般県民でこのことをどれだけの人々が気付き、またその必要性の程度を判断しているでしょうか。さらに受益地域住民、潅漑用水費用分を負担するだろう秋田県民にたいして、本当の情報を提供し、その判断を求める時間を県は作るべきと思います。この点については、私たちは昨年3月にも1度、県の各担当者の方と話し合っていただきましたが、ただ聞き捨てのままとなっています。知事からこの点について、再考いただけるようお願いします。
 私たちの組織だけの結論では、代替え案を含めた、県民全体の判断が反映されることを希望します。

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