秋田県知事宛の意見書(1999年3月:秋田県庁)

      成瀬ダムで県民は元気になるでしょうか

成瀬ダムは多目的ダムです。そこまではみんなが知っています。しかしそれ以上のことを県民はどれだけ知っているでしょうか。私たちはここ3年の学習でほんの少しのことを知りました。知事さんは私達よりもっとご存じでしょうが、やはりお気付きになってないことはないでしょうか。建設省も農政局もダム建設に不都合なことは、みな隠しています。

農家はダムにいくらの負担が来るかと、何度も聞きましたが、未だに回答はありません。県民は、このダムは県南の農家が負担すると大抵考えています。しかし、特定多目的ダム法、同施行規則などによれば、これは結果として秋田県民みんなが負担するものです。この点で県北の長木ダムなどとはちがいますが、ほとんどの人が気付いていません。成瀬ダムは県民みんなの問題です。県民みんなで判断しなければならない、大きな問題です。判断する権利もあるのだと思います。ところが、事業者の建設省も、秋田県民もそう思っていないところに第1の問題があります。

第2に、この事業の代替案が、事業計画進行過程で、まじめに検討されていません。この事業が完成するのは21世紀も10年か20年たってからです。21世紀は自然の負荷を考えながら、持続的な生産社会を構築する時代です。これまでのような拡大再生産オンリーの行為は許されないのです。それにふさわしいような代替案の検討や提案が、どれだけあったというのでしょう。

第3に、来たるべき社会は、より豊富な情報に基づくさまざまなオペレーションが可能となる社会です。そのような立場から、すでに構築された設備、残されている自然の能力をも含めて、その統合的な判断が可能となり、またそのように対処していくべき時代がやってきます。その中では、たとえば既存のダム1つをとっても、その能力を200〜300%に利用することが可能となるでしょう。

それやこれやを考えるとき、この事業は性急に次の段階へと展開できる状況にはありません。もっと県民全体に情報を公開し、広くその判断を求めるべき段階と私たちは結論します。以下、私達の考えるいくつかの問題点をつぎに申し上げて、適切なご配慮をお願いするものです。秋田県民が元気になる水政策を、尊敬するわれらが知事に期待します。

   2 農業用水はほんとうに足りないのか

成瀬ダムの目的は50%以上が農業用水

県土木部の成瀬ダムに関する諸元表では、このダムの農業用水取水量は2850万 となっています。しかし特定潅漑の項を見ますと3696万 (5/6〜9/5)となっており、これは有効貯水量の実に48%強であることがわかります。
さらに「不特定利水」2800万 の内訳が問題です。これは現在わたしたちは調査中で何とも言えないのですが、昭和52年に成瀬ダム期成同盟会が当初に掲げた農業用水目標取水量5000〜6000万 は、正に前者と後者を加算した量に合致してしまうのです。(28050万+2800万 )もしそうなると、このダムの有 効貯水量の74%にあたり、これは農業用水ダム以外の何物でもないということになります。

旱ばつ被害は0に近い

ダム審議会に出されなかった資料の1つに「農業災害調査」があります。不景気がくれば企業倒産が起きるように、農業には毎年農業災害が生じいます。これがなぜダム審議会にきちんとした姿で提出されなかったのか、不思議な話です。環境影響評価準備書にも、その作成中の時期に私たちから提示したにもかかわらず触れられていません。
農業災害調査は、農政局自体の機関で毎年調べられ、「秋田県農林水産統計 年報」として発表されています。そちらの調査組織でまとめた経年的な資料を私達の手で整理して、付表1,2に付けておきました。これによりますと、旱ばつ被害実額は限りなく0に近いという、驚くべき実態が見えてきます。旱ばつ被害の何十倍もの冷害、日照不足、いもち病などの被害が、毎年のように当地の水田では起こっていることがわかります。
平成6年は全国的な大旱ばつの年でありました。県南では面積こその水田で旱ばつ被害を受けるのですが、被害額(減収量)は3郡でたったの700tの減収でした。同じ年の病害3,000tと比べても、その に過ぎず、前後10年でもっとも農業災害の少ない年でした。
年とった農民は口を揃えたように、「当り前ナベ、日でりに不作なしテ昔から言う」と答えます。ちなみにその前年の平成5年は冷害などにより減収量5万3千tを超えました。皮肉にも、その年の旱ばつ害は0でした。

番水−−通し水の実体

もちろん日でりの豊作には農家をはじめ、水利関係者の血のにじむような努力を私たちは認めます。しかし、「冷害不作」の年は、水田耕作関係者は怠けていたのでしょうか。企業といわず農業者といわず、経営の日々は戦いの連続です。しかるに農水局はことさらに「番水」を異常事態として建設省に訴えています。以下、建設省の資料より、番水実施状況を1部併記します。
S.59 8/6 〜 8/31 S.60 8/1 〜 8/27
H. 元 7/28〜 8/7 H. 4 7/28〜 8/9
H. 6 7/22〜 8/24
(ダム審議会資料・成瀬ダム計画技術レポート平成8年5月より引用 −− 以下技術レポート)
この内容について、皆瀬ダムの運転記録から拾ってみますと、次のことがわかります。まず、これら番水実施期間はいずれも7月1日以降であり、このダムの洪水期に当たっていますので、ダム水位237.5m以下(標高)であることが規定されています。そして、概ね233mをきった時点から「番水」は実施されていることがわかりました。このダムの農業用水分は水位222.5mまでですから、水位3.5m 〜 4.5mの消費で「番水」は実施され、さらに11mを利用して底水に 達するわけです。
ここで気付くことは、「番水」はかなり早い時期から実施されているという事実で、先人農業者の深い英知を感ずるものです。お天気相手の農作業は、いつ旱ばつが起きてもおかしくないのです。早い時期から節水し危機に備えるというのは立派な水管理技術といわねばなりません。飽食になれた1部の人々が川の水はいくら使ってもよいと考えるのなら、恐るべき破壊思想といわねばなりません。
(東成瀬村長らの出席されたダム審議会に出された資料中の、平成4年の番水は洪水期制限水位よりたった2.4mの低下から始まり、本当の水位低下は稲刈 りの時期でした。それでか否か環境影響評価準備書では、この項だけ、黙って消されています。)

ついでに、ダム審資料の「利水安全度」なるものに触れておきます。皆瀬ダムの貯水水位が、最低貯水位を割った年が「皆瀬ダム完成後32年間の内12回、近年10年間の内5回であり、利水安全度が計画を大きく下回った」とありますが、水田で水を必要とする期間のものは昭和48年と平成6年の2回だけで、計画安全度1/10にたいして0.6/10と上回っていると判断すべきでしょう。3月や11月に、横手盆地のどこの水田で水を必要としているのでしょうか。理由にもならないような理由をあげる建設省資料です。

成瀬ダムは旱ばつ防御力ゼロ

このダムは自然流量維持分として2.8 /秒をみています。それに農業用水計画取水量しろかき期37.06 、普通期19.88 /秒ということで、平成6年渇水 時の試算をしました。流量年表の実績で、不足分を成瀬ダムで補うものと考えますと、8月末で約2136万 の水が不足するという結果になりました。計画通りの使い方では、依然として水は足りないという計算です。自然には負荷の限界というものがあります。現在の無駄遣い体質が、こんなところからも伺われます。

農業用水の実需量はいくらか

皆瀬ダムの事業には故笹山茂太郎氏らを中心として、多くの農業技術者集団が、大変な努力と基礎調査の結果実施されたように理解しています。当該地何百個所に及ぶ日減水深などの測定が、毎日続けられたという記録もあります。
この手法は今日でも通用するもので、たとえば、最近の建設省の「都市の水循環再生構想策定マニュアル(案)99,1」などにも見られるところです。
ひとつの試算として日減水深量1.5cmとすれば、10,000haで1500,000 の水 が日量として必要です。現在当該地2つの頭首口では日量約1750,000 の水を農業用水として取水していますから(5〜6月)、贅沢いわねば充分間に合う量が入っている訳です。これに雨でも降れば、現実に排水路は溢れる状態で流れているのを、私たちは観察しています。
まして只今は3割減反の最中です。6月でも現在の計画取水量を若干減らせる状況ではないかと思われます。(天候にもよりますが)

問題は5月当初の「しろかき水」にあります。最低400 /ha、1万haで400万 の水が、わずか1週間そこそこで必要という事態が起きています。農家の水不足は「番水」ではなくて、正にこの1点であることを否定できる人はいないはずです。(兼業農家は日曜に田植えしたい)しかもこの時期に、ダムのない成瀬川に、それに答えるだけの水は、現在すでに来ていることが流量年表からは読みとれるのです。これもウソみたいな現実です。
現実を無視し、一歩下がってそれでも400万 の水を追加したいとします。この問題は冷静に処理すべき問題です。たった1週から10日間の需要に、どうしても(基盤整備をふくめて)2000億のお金を投ずべきでしょうか。生態系保護地域を巻き込んだ自然破壊を犯してまで、実行すべき事業でしょうか。膨大な国や県の借金を重ねるべき仕事でしょうか。しかも農家は、明日の経営の不安にあえぎ、これ以上の借金はしたくないと言っています。重ねますが、ダムなしで、今もそれだけの水が来ていることは見ないことにして。

代替え案 −− どうしてももっと欲しいのなら

ハイウエーは盆正月ごとに渋滞を起こします。盆正月の10日間のためにもう1本ハイウエーを作れという国民はいません。渋滞を避けたい人々は、出発日をずらす工夫をするではありませんか。つまり「代替え案」を正常な頭脳の持ち主なら、みな考えるものです。
「しろかき水」400万tを補う1つの案は「溜め池」をつくることです。昔からやってきたこの素朴な方法は、休耕田3000haの の1000haに水を40cmためるという考えです。これで400万tの水ができます。水田の底の日減水量を仮に10mmとすれば、10日で100万t消えるとして、300万tの残−「7500ha分のしろかき水」が確保されることになります。(現在の水田耕作面積にほぼ該当)田の畦畔は30cmほどしかありませんから、もう少し土盛りしなければなりません。こうした小規模の土木工事は100%地元の工事人に発注されますから、金は100%地域に保留されます。「水ため賃」は休耕田の所有者に支払われるのはもちろんです。「水ため」の期間は4月中旬から5月半ばでいいわけですから、その後の畑地利用にも大きな影響はないと思います。

別の方法もあります。これは雄物川筋土地改良区の歴史を調べていて気付いたのですが、増田・十文字・平鹿地区の地下水低下、湧水の枯渇などは、雄物川土地改良区の土木工事によって引き起こされた一種の公害であったということです。この地域には多数の頭無川が存在しました。それは扇央部分で湧き出して表流水となり、さらに下流−扇底部分に当たる大雄村などの主要水源であったものが、現在は完全にストップしてしまいました。
湧水の特性は重要です。西奥羽土地改良調査調整事務所の皆さんは、あまりにも不勉強であるのか、故意に無視しようとしているのでしょうか。これらの水はゆっくり動きます。つまり5月に出てくる水は2月〜3月の水です。湧水が確保されるということは、5月の「しろかき」の時点で、表流水とあわせて2倍の水が供給されるということなのです。(ゆっくり動く、急いで動く時差出勤が、ここでは成立しています。)

昨年来、環境庁も農水省も建設省も、盛んに地下水を論議していますが、まだ「地下水はゆっくり動く」ことの農業用水としての効率をあまり論議していません。しかし、昔からここの地域の農民は、このことを膚で知って、生産活動に有効に利用してきました。これからの土地改良事業には、そのメインとなる事業の1つに、湧水の復活をあてていくべきなのです。
これは地域や県から国にたいして事業提案していくべきことと思います。地下水はよそへ流れる無駄な水というのが、これまでの農業土木事業の根底にありましたが、これは間違いであり、金の無駄遣いでした。水循環軽視の弊害がこんなところにも現れています。

第3の方法は、末端の水管理を「エチケット」から「管理組織」に切り替えることです。ある農家は言いました。「水元はグチャグチャ、ケッツはポンポンだ。」 農家はてんで勝手に水を無駄遣いしているというのです。改良区などの関係者の方々は、機会あるごとに水の有効利用を唱えています。しかし、実態は、朝自分の田に水が入るようにして、会社へ出勤してしまいます。あとは水が溢れても止める人がいません。水尻の水田には水がなかなか届かない様子を皮肉って、「水元はグチャグチャ」と言ったわけです。別の心有る人は嘆きました。「革靴を履いて田んぼへ行く人が多くなった。」

水不足のかなりの部分がこうして「作られた水不足」であることは、ほとんどの農家の認めるところです。しかし会社をやめては今の農家の多くは生活できません。水田耕作者は高年齢化し、しかも後継者不足はますます深刻です。
そして、大規模少数の専業農家ほど、水利費負担の増大に怯えていおり、今回のダム計画に反対であるという事実も考えてください。専業農家と日本の食料問題は、切っても切れない重大問題です。水管理の末端組織を整えるのは、農民自身の手で構成可能です。その経費は、ダム建設費などと比べて、どちらがコストが高くつくでしょう。破壊される自然のコストとも比べてみてください。農政局にはコストという言葉がないのでしょうか。
(国の事業だけでなく、農家自身の事業にも、これからは補助金を付けるべきだし、その方がコストは安くなります。たとえば農家による水管理は、70才以上の老人で十分可能ですし、一部では現に無償で行われています。)

    3 上水道計画の問題点

渇水という名の実態

技術レポート(建設局)は言います。「夏季渇水期に頻繁に発生している。水道用水の不足時には、断続的な時間給水、長期にわたる減圧給水および、給水車による飲料水の供給等により対処している。」として、近年の渇水状況16例をあげています。
・H元 湯沢市宇留院内地区 高松川流域です。
・H6 湯沢市上水道 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
西仙北町 刈羽野 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
西仙北町 杉沢 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
西仙北町水道未普及地区 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
南外村物渡 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
南外村夏見 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
南外村大杉 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
南外村坊田 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
南外村北田 成瀬川・皆瀬川流域ではありません。
これらはいずれも夏季渇水ではありますが、実に16例中の10例までが、ダム計画の成瀬川流域とは直接関係のない地域です。特に宇留院内地区にいたっては、なぜ全く別の山麓地を引用したのか、理解に苦しみます。
西仙北町などの6例も同様で、そこを玉川、雄物川の農業用水の排水がとうとうと溢れんばかりに流れているところですし、全く使われていない工業用水までが無駄に流されています。総理府はこのような無駄遣いについて、再三注意しているにもかかわらず、国民の税金をなんと考えているのでしょう。
残る6例のうち東成瀬の2例は、同じく夏季の渇水ですが、対象戸数も少なく、代替え案のほうがコストがはるかに安いということなどで、東成瀬村当局は、取水計画を返上しています。
・H5 増田町新町・本町・福島地区 11/19〜29
・H6 十文字町西上町・田屋・梨木地区 2/6〜3/19
この2地域は晩秋ないしは冬季の渇水であることに注目してください。これらの地域は、水田耕作により、全県一の広大な扇状地構造と相まって、豊富な地下水の函養が、昔から営々と続いてきました。それは今後とも、夏季地下水に限って言えば、充分に供給できる状況にあります。
この地域の冬季渇水は、前にも述べたように、農業土木事業によって引き起こされたことは明らかです。地下水の入口に大量のセメントを流し込み、さらには3面コンクリー水路など、水循環を配慮しない工事に多額の国の経費、農民の負担をつぎ込むことによって、冬季地下水面低下を引き起こしました。したがって、これを補正し、またはそれに替わる水の自然循環の手当をすれば、上水道用水は充分に確保でき、水循環の回復そのものも計られることとなります。1つの方法として当面冬の田んぼに水を貯めることで、増田町の一部ではその回復に成功しています。
結局、渇水例16例中1例だけが残ります。
H6 増田町湯野沢・戸波地区 8月の約10日間
このうち戸波地区は成瀬川水系ではなく皆瀬川水系に属します。川と山に接した地峡部で、皆瀬川の伏流水の許可がもらえれば、解決する状態です。湯野沢は山の湧水を水源にすでに解決済みのばしょです。
当地の上水道問題は別にあります。それは冬季の地下水低下です。しかしこれは水循環正常化をはかることで、当地の需要は十分に保証される問題です。
まして負債にあえぐ町村自治体に、これ以上の負担を負う必要を、一般住民は認めません。それは直ちに2倍、3倍高額の水道料金として、住民の生活そのものを直撃することは目に見えています。

水の水増し計画

建設省湯沢工事事務所は、上水道の給水計画について次のような回答をしています。(建東湯開調第5号 平成10年3月31日)
1人1日平均給水量予測結果
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
|市町村名|計画給水人口| 1日平均 | 1 人 1 日 平 均 給 水 量 |
| | | 給水量 |生活用|業務営業用|工場用|その他|合 計|
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|湯沢市 | 26,500 | 14,000 | 258 | 107 | 57 | 5 | 528 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|増田町 | 6,789 | 2,725 | 348 | − | − | − | 401 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|平鹿町 | 7,855 | 2,977 | 347 | − | − | − | 399 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|十文字町| 8,430 | 3,328 | 343 | − | − | − | 395 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
これに対する給水実績値は、各市町村担当者の回答は次のようになっています。

給 水 実 績 平成8年度
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−+
| | 給水人口 | 1日平均 | 1 人 1 日 平 均 給 水 量 |
| | | 給水量 |生活用|業務営業用|工場用|その他|合 計|
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|秋田市 |304,365 |118,136 | 218 | − | − | − | 397 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|大曲市 |34,260(計画)| 11,780 | 218 | 67 | 2 | 4 | 344 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|横手市 | 38,975 | 15,652 | 192 | 120 | 12 | 2 | 412 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|十文字町| 7,959 | 2,595 | − | − | − | − | 326 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+
|湯沢市 | 25,708 | 11,985 | 191 | 117 | 33 | 4 | 466 |
+−−−−+−−−−−+−−−−−+−−−+−−−−−+−−−+−−−+−−−+

とくに、湯沢市の1人1日平均給水量の実績値が異常に高いのはなぜでしょう。わたしたちの質問に対して、工事事務所当局は、「酒造工場における使用水量が大きいことなどから」と文書で回答いただきました。(建東湯開調第20号・平成10年10月16日)
そこで今度は、湯沢市長宛にこの点について確かめたところ、市内酒造業者5社の上水道使用量は、
平成7年度 月平均 20,454 (日量 681.8 )
平成8年度 月平均 22,244 (日量 741.5 )
平成9年度 月平均 22,289 (日量 743.0 )
とのことでした(水 9.0.0 平成10年11月16日 湯沢市長)。
ここで平成9年度分日量743.0 を、給水人口約25,600人で除すると1人1日平均給水量への酒造業寄与分はたった29 になります。つまり建設省の回答は何を根拠にしたのか不分明だということとなります。
ここで前に戻って、生活用水分実績を全体から減じますと、1人1日平均給水量中の営業用、工業用その他分の合算値がでてきます。それを秋田市と他市町村で比較してみます。(平成8年度)
秋田市 179 秋田市を1とすれば
大曲市 126 0.704
横手市 230 1.285
湯沢市 275 1.536
仙台市 172 (十文字町推定 0.704)
となり、いかにこの数値が突出した怪しげなものであることが明白です。さらに疑問を残すのは、湯沢市教育委員会が発行する小学校副読本「わたしたちの湯沢市」に掲載される数値です。この副読本は、それ以前に発行されたものの数値が古くなったということが、発行理由に記されています。
副読本の1人1日平均給水量 353 (平成7年度)
1日取水量 9000
湯沢市の1人1日平均給水量 466 (平成7年度実績)
1日取水量 約12000
この食い違いに対して、湯沢市の回答は「無効水量−漏水など」の説明をしていますが、1人1日平均給水量にして100 以上、実に33%がこぼれた水をダムで補給するとは、国民県民の懐を何と思っての建設省でしょうか。
似たような問題点は増田町の上水道計画にも見られます。
十文字町平成8年度1人1日平均給水量は326 でした。今後50%まで下水道が普及するとして(県内普及率最高の秋田市で64%)、生活用1人1日平均給水量の10%である20 の積み増しをすれば十分と計算します。ですから十文字町で345 〜350 程度が20年後頃の需要値と思われます。もちろん水の無駄遣いが際限無く進めば、この限りではありません。
ご存じのように、増田町は広い山間地をかかえ、下水道普及率や営業用上水道使用量が、今後増えるとしても、十文字町よりは若干少なめに見積るのが一般の見方です。1人1日平均給水量401 というのは、水の水増しそのものとしか、言いようがありません。

飲み水は地下水を大切に利用する

現在の地下水の水位が下がり始めたのは、昭和30年代後半からです。昭和60年の調査が、現在十文字町にはあります。現在はさらに低下しているでしょうが、その最大の原因は農業土木工事によることを再三述べました。扇状地の末端扇底部には豊富で良い水質の湧水が散在し、良質の清酒の原水となっています。その清酒醸造業にも暗い陰を投げかけ始めているのが現状です。しかし、国でも水循環の問題に、最近は真剣に取り組み始めています。地下水の入口を広げ、良質の地下水を函養することは時代の要請でもあります。自然の施設(地下水)は自然が絶妙な生態系の調整力で量と質を回復してくれます。しかし、人工の施設(浄水場など)は、耐用期間があり、事後継続的な投資を必要とします。その調整力も自然ほどのバランス能力は望めません。自然に過大な負荷を掛けることなく利用すれば、地下水のほうが質的にもコスト的にもベターであることは万人の認めるところです。わたしたち住民は、今後とも持続的な地下水利用を、生活用水として望んでいます。

    4 洪水調節への意見

洪水防御への基礎理念は変わった

建設省の試算(ダム審議会平成8年5月資料)によりますと、成瀬ダム完成時の調節能力は、椿川基準点で81年洪水水位低下7 (1%弱)、87年洪水で5 (0.7%)と算出されていて、これでは誤差の範囲程度の微小な効果しかないことを示しています。これは当該ダムの集水流域が68 2と狭く、きわめて 効率の悪いダムであることからきています。(玉川ダムの の効率)
一方、この50年間に実施された災害対策の経験に基づき、その方向は今大きな転換点に差しかかっています。昨年3月26日発表の「全国総合開発計画第2部第1章国土の保全と管理」では、「災害の未然防止より、生じた被害を最小化する減災対策を重視する」といっています。現に当局が雄物川流域で実施中の「輪中工事」などは、それを先取りした優れた発想と評価すべきではないでしょうか。ダム計画一辺倒の過去の治水計画から、遊水池計画など、より自然順応型の計画へと、転換すべき時点に差しかかっています。

被害原因の変遷

洪水調節計画の基礎となっている9,800 /sec(椿川基準点)という数値は戦争直後の荒廃期という異常事態の最中であり、山はどこも丸坊主となっていました。瀕死の病床にあった自然と今日の自然では、状況は大きく変わっています。
この60年間に、建設省を中心とする関係機関のご尽力により、ダムや堤防工事は大きく進捗しました。秋田測候所の資料によりますと、昭和47年7月8日から9日にかけての24時間降水量はきわめて多く、
鎧畑 374.5mm 東成瀬 130.5 秋ノ宮 211.5
となりました。しかし、この時の被害を建設省資料によりますと、
床上浸水 261棟 (昭和22年被害の 2%)
床下浸水 1,091棟 (同 9%)
浸水農地 9,095ha (同 50%)
ということで、27年間の当局治水努力の成果がよくあらわされています。
また、一方昭和62年8月の洪水では、
床上浸水 534棟
床下浸水 1,040棟
という数値が報告されていますが、測候所のデーターでは、県南部降水量は意外に少なく、昭和47年7月洪水時の 〜1でした。
鎧畑 173mm 東成瀬 134mm 湯の岱 172mm この洪水は、発生状況などから推察するに、都市型洪水であったことは明白です。その後も治水事業は進められ、堤防の延長、玉川ダムなどの完成によりダムの洪水調節量も昭和62年当時の 350%程度に向上しております。ダムによる水調節はいちおうの完成期に達しているのではないでしょうか。

平成6年9月洪水は別の対策が見えてくる

湯沢工事事務所よりの資料提供による皆瀬ダム洪水調節図には、平成6年洪水において、不思議な現象が描かれています。ダムへの流入量ピーク値と24時間降水量(アメダス資料より算出)との間に、整合性がないのです。
+−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 流入量 |S47年7月ピーク値|S62年8月ピーク値|H6年9月ピーク値|
| (皆瀬ダム) | 325.99 | 421.62 | 809.1 |
+−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 湯の岱 | 130.5 mm | 134 mm | 49 mm |
+−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 東成瀬 | 211.5 mm | 172 mm | 73 mm |
+−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+
| 皆瀬川向 | 65 mm | 196 mm | 66 mm |
+−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+−−−−−−−−+
(昭和47年時の観測点名湯の岱は秋の宮、皆瀬は高橋増氏測定)

平成6年の洪水では、昭和47年の2.3倍のピーク値を記録していますが、降水量は決して多くないのです。湯の岱・東成瀬の値からすれば、むしろ 程度に過ぎません。同様のことは昭和62年洪水でも見られます。
この点について私たちは、建設省に問い合わせしましたが、確とした回答は得られませんでした。私たちはこの事実を、おそらく林道などの無計画な山林の開発行為によるものではないかと、疑っています。降った雨は林道や、開発された温泉地などを臨時の水路として、一気に川に流れ込んだという、新しい都市型洪水の図が見えてくるような気がします。焦眉の治水対策は、ダムではなくて、治山ではないかと考えるのですが如何でしょうか。

第2に、平成6年洪水は予備放流への疑問が残っています。皆瀬ダムの当時の運転記録(付図3・4)を参考にしてください。前日のダム水位は231mでした。翌30日9時18分、流入量は急速に跳ね上がり809.10 /秒となり、13時23分最大水位239.92mに達します。この時点で流入量はすでにピーク値の まで下がっていますし、下流部流域の増水を勘案すれば、一時的に放流量を押さえることも可能だったし、反対に降りはじめの30日5〜9時までの時点は貯めずに全量放流してもよかったはずですが、おそらく発電所の関係で、それが出来なかったのかとも憶測されます。その点では、発電所のついた洪水調節ダムは約立たずだといえます。建設省は東成瀬岩井川地区の洪水を大宣伝していますが、ここは小規模の築堤で十分対応できる小さな被害です。

21世紀は情報社会といいますが、気象情報とその地形などを組み合わせた微気象予測も急速に発達している時代です。その情報を処理、シュミレーション化し、その地域毎の洪水予報計画に基づき、現有の施設は今以上の機能を発揮できるように期待できます。農業用水のいらない秋田の9月30日、洪水調節ダムに、むざむざと水を貯め込んでいたということもなくなるでしょう。あと降らない雨を恐れて、ジャンジャン放流するということも終わるでしょう。

堤防の必要

これからの洪水対策は、築堤とある程度の遊水池を中心として計画すべきと思います。自然に人力で徹底抗戦を叫ぶヤマトダマシイではなく、自然と融和しながら危険から最大限に避けて歩くという頭の転換が必要です。コストもはるかに安くなり、自然にかなった社会計画と思われます。建設省のお話では、雄物川流域にまだ無堤防区間、暫定堤防区間が、120kmから残っていると言います。こうした工事は100%地元に落ちるというのも、魅力的です。再考を期待しています。

    5 環境アセスメントは中途半端です

猛禽類は最低3年のプロの調査が必要

プロの調査といったのは、昨年前半まではその域に達していなかったからです。バードウォッチングではないのです。個体識別のされていないイヌワシ・クマタカ調査では、生活圏の構造がどのようになっているのか不明です。秋田駅前を歩く人の軌跡を、全部描いてみても何も分かりません。その中の、どれが太郎さん、花子さんかを見つけて、太郎さんの軌跡、花子さんの軌跡を描くと、それぞれの人の生活拠点がどこなのかが判明します。そういう調査を少なくとも3年は続けないと、イヌワシと事業予定地点との関係はわかりません。第2に、現在猛禽類の繁殖が、かって以上に危機に瀕してきたという現実です。20年前の東北のイヌワシは繁殖率60%を超える全国1の優等生でした。九州や四国からイヌワシが消えても、東北だけはという気分がありました。それが最近30%台をきって、20%台に落ちたというかなり確かな情報があります。
現在、環境庁では、猛禽類の保護のためのマニアルを決め、正面から対策に取り組んでいるにかかわらず、現状は悪化をたどっています。たった半年の個体識別調査(12月の東成瀬村での住民説明会での湯沢工事事務所所長は、この調査さえまだ不完全だといっています)で、見切り発車するという根拠が納得できません。
同様の点は小笠原教授らのクマゲラ調査も、やっと調査が緒に付いたところであり、今後の推移を世人は息を飲んで待っています。なぜ計画の進捗を急ぐのでしょうか。

生態学的な調査はしないのでしょうか

山から数枚の落ち葉が飛んできます。それが「北の俣沢」に沈みます。するとそこに数百万のバクテリアが繁殖することでしょう。それを食べる大小のプランクトンが発生し、さらにはそれを食べようとイワナなどの稚魚が集まって来ます。川魚をねらっている小鳥の数は、餌となる魚の生産量に左右されることは当然です。その小鳥を食べて生計を立てる猛禽類もいることでしょう。イヌワシの数が減ってくる一番の理由に今上げられているのは、餌であるノウサギの数が激減してだと言われます。バクテリアやプランクトンのような下位集団の生産量はどれほどか、それに見合う中位集団の生産量、上位集団の個体数というように、それぞれの調査地域における、生態学的な生命のエネルギー量の基礎がどのように存在しているのかを、今回の調査では「まぁまぁ」的にしかとらえていません。「残った林はナンボある」では、「いい加減」な話ではありませんか。
現に猛禽類のハンティング行動が、現地で多数観察されたことは、建設省中間報告資料「ワシタカ編」でも記載されています。一方、その餌のほうは、どこを見ても種類も量も記載されていません。これでは環境影響評価は半分しかやっていない目録作りではないかと思えます。

生態系保護地域に「みち」が引かれてしまう

ダム工事計画は平成3年建設省直轄となり、にわかに具体化が進みました。一方生態系保護地域指定は、同じく平成3年前後より全国的に進みますが、当栗駒栃ガ森山地区の指定は平成5年の線引きとなり、その線引き作業で工事地域との関係が問題になったと聞きます。しかし、その審議の内容は未だに公開されずさまざまな憶測のみ飛び交っています。
生態系保護地域の線引きが、きわめて不自然に峡谷部奥地まで深くくびれていることは、当時から、生態系保護地域の指定の意味からいって、多くの人々の疑問を呼んでいました。生態系の概念自体、山の稜線部と渓谷部を不可分と考えるからには、これは当然の不審な点です。保護地域指定に携わった専門委員の中に、保護地域指定の本旨を理解しない方がはいっていたとしか、理解のしようがありません。

今日、ダム計画が現実のものとなって来た時、改めて気付いた事実があります。それはもしダムが完成して、ここに湛水した場合、峡谷部は新しい水路を形成して、林道を新設したと同じ効果を招くという事実です。現在でも、渓谷部ぞいにハイカーなどの奥地汚染の事実は進捗中であり、秋田営林局もその管理に手を焼いています。ダムが完成すれば、水路の末端部分までの行程は今より容易となり、保護地域の破壊がいっそう促進されることは、火を見るより明かです。生態系保護地域の指定は有名無実となり、県民だけでなく、国民全体人類全体の自然の財産を、秋田県民は守らなかったという汚名を歴史に残すこととなるでしょう。

ここにもう1つの問題が入ってきました。工事区域と保護指定地域との重複問題も有りますが、営林局の機能類型区分が大転換の過程にあるということです。ご存じのように国有林の生産利用機能は、従来の54%から21%に縮小され保全や水函養機能は大きく拡大されるところです。この面からも工事予定地域への対応に、住民の関心と発言を呼びかけていただきたいし、当面する村の大きな労働需要として評価し、座視せず、地域から県や国への要望・提案を活発にしていただきたく存じます。

    6 失われるすばらしい景観

前にもあげた12月末の雪の夜、建設省主催の住民説明会で、村の方から質問が出ました。「赤滝はどうなるのか。あれは実物のまま残して欲しい。」写真や映像を残すというのでは満足できないというのです。
赤滝は、東成瀬村住民だけでなく、広く県南地方住民の「雨乞いの神様」として、古くからの信仰の対象として今日に及んでいます。かって日照りの年には、近在から御参りにくる農民が村の中を、延々の列を作ったと聞きます。今日でも、お正月の掛け軸に「赤滝神社」の軸を掛けている農家が少なくありません。
準備書では、赤滝について11.5mの水面下になることとあわせて、「ダム上流には広大な貯水池が出現し、景観が一変する」「周辺の林地とあいまって山間の湖沼景観を創出する」と述べ、一大景観の出現を想像させますが、ほんとうはどのような光景になるのでしょうか。
隣接する皆瀬ダムの秋の景観は、とても一大景観とは言えません。毎年湖底が顔を出し、地元の人々も、完成当時の5,6年は遠足が来たが、今は誰も来ないといいます。かろうじて小安峡谷部分はダムから外れたため、外れたゆえに観光地の面目を保っています。

北に隣接する岩手県湯田町錦秋湖はどうでしょう。ここでは町を挙げて「建設省にだまされた」といっています。秋ともなれば泥とごみをかむった故郷が残骸となって現れます。観光地どころではありません。赤滝もそうした泥だらけの、山の残骸を周囲に配した「あわれな一大景観」とならないと、誰が保証できるでしょう。地形的には、その可能性はきわめて高いのです。その時の建設省のお役人はみな交替し、それは前任者から聞いていませんと、またそっぽ向くのでしょうか。農民の、私たちの魂の故郷である「赤滝」や「北の俣沢」の将来を、私たちは子や孫たちに、どのような形で残してやることが出来るのでしょうか。

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