●ひじが抜けた(肘内障)とき

 小さい子の手を引っ張ったら、急に泣き出して腕を動かさなくなった、といって連れてこられる場合がときどきあります。いわゆる、肘(ひじ)が抜けた、というやつです。こんな場合は、ほとんどが肘内障(ちゅうないしょう)といって、肘の関節が少しはずれかかった状態=亜脱臼=です。肘の関節は、上腕骨、橈骨(とうこつ)、尺骨(しゃっこつ)という3つの骨からなっています。このうち橈骨の肘に近い部分(橈骨頭)は輪状靭帯(じんたい)という靭帯によって押さえられていますが、幼児期には、この靭帯の支えが弱いのと、橈骨頭が相対的に小さいため、肘の関節が伸びた状態で引っ張られると橈骨頭が輪状靭帯から抜けやすくなっています。

 よちよち歩きをはじめたばかりの子どもの手をひいて歩いている時に、ころびそうになったのでとっさに引っ張ったらこうなった、というのはよくある話です。手をもって「タカイタカイ」をして遊んでいる時にも起こります。先日、夜中の11時過ぎに、4歳の子が肘内障を起こして病院を訪れ受診しましたが、その子は、なんと、自分で自分の腕を引っ張ってはずしてしまっていました。手を引っ張る以外にも、寝返りや転んだ時に起こることもあります。

 抜けた瞬間から、子どもは痛みで泣き出し、腕をだらんとさせて動かそうとしなくなりました。たいていの親御さんたちは何が起きたかとびっくりします。たまに手首や肩を痛がる時もあり、ほかの部分の骨折と区別するためにレントゲン検査が必要な時もありますが、肘内障だけでは骨に異常はありません。

 肘を曲げたりしていじっているうちに、偶然に治ってしまうこともありますが、放置しておくと戻りにくくなることもあるので、できるだけ早く医師の診察を受けてください。治療は比較的簡単で、専門医(整形外科のお医者さん)なら一瞬のうちに治してくれるでしょう。治ると、また元通りに腕を動かせるようになります。後遺症の心配もありません。大きくなるにつれて、関節も成長するのであまり起こさなくなりますが、くり返しやすい子どもさんもいますので、小さいうちは腕を強く引っ張ったりしないよう注意してください。

 親が引っ張った、などの原因がはっきりしている場合は良いのですが、1人で遊んでいて、急に腕を痛がるような時は、肘内障以外の外傷、例えば鎖骨や橈骨の骨折も考えられますので、やはり整形外科で受診された方が良いと思います。

及川 亨(江刺市・小児科医師) 胆江日日新聞社より