●アトピー性皮膚炎

 「アトピー性皮膚炎」「アトピー」という言葉を、雑誌やTVなどで見聞きしない日がないくらいに現在最もポピュラーな病名の一つではないでしょうか。それでいて、その実体となると“シッシンのひどいもの”程度の認識しかないようです。実際、医師の間でも皮膚科や小児科、アレルギー科など診察料によって、さらには医師それぞれにとらえ方が異なり、つい10年前にアトピー性皮膚炎の枠組みが専門医により提示されたばかりなのです。これに専門外の、特にアトピー関連グッズの業者の売り込みやマスコミなども加わって、言葉だけが一人歩きしている感があります。

 アトピー性皮膚炎の診断の枠組みですが、@慢性の(長びく)湿疹であって、Aある程度、皮膚の症状に一定のパターンがあること、そしてBアトピー素因(本人や家族にぜんそくやアレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などがある)を伴う場合が多いということです。特にAの皮膚の状態については、年齢や身体の場所によって違ってきます。

 たとえば、乳児などでは顔や頭を中心にジクジクした湿疹ができて広まっていくことが多く、学童期では顔や首、ひじやひざを中心に乾燥したガサガサした湿疹ができやすくなります。季節によっても、汗などで夏に悪化しやすい人、空気の乾燥する冬に悪くなる人、1年中通してあまり気候に左右されない人もいます。

 このように一口にアトピー性皮膚炎と言っても非常に個人差が大きいのです。したがって治療についてもその人それぞれに合ったものが必要となってくるのです。

 さて、アトピー性皮膚炎の原因ですが、現在、アレルギー反応としての側面、皮膚の保護する働き(皮膚バリア)の障害、そして精神面を含めての環境因子の大きく3つが注目されています。

 治療もそれに対応して、抗アレルギー剤などを服用し、皮膚のアレルギー反応(炎症)をステロイド外用剤や非ステロイド系消炎剤を塗ったり、また皮膚バリア障害を修復するために低刺激性の石けんでやさしく洗うなどの入浴などを含めた生活指導に加えて、その人に合った保湿剤を使用するなどが必要です。

 環境因子については部屋のホコリやダニ対策−畳からフローリングにするなど−や、ストレスを貯めない努力など、その人それぞれに抱えている問題点を浮き彫りにしながら、ほぐれた糸をほどくように根気よく治療していかなければなりません。

 このようにアトピー性皮膚炎は人に個性があるように一様なものではなく、また治療法も唯一絶対という訳にはいきません。そこで最後にアトピー性皮膚炎4ヶ条をもって締めくくりたいと思います。

 一、いろんな情報に振り回されないこと。

 すぐ治るという甘い言葉は要注意!

 一、信頼できる医師を探せ。

 治療は患者と医師そして家族などの周囲の人たちとの共同作業、ともに苦しみ、ともに喜ぶ。

 一、己をよく知れ。

 どういう時期やどういう環境、どういう精神状態のときに良くなったり悪化したりするのか問題点を探ってみる。日記や自分史を作ってみるのも一法。

 一、波はあっても必ず良くなると前向きに生活。

 落ち込んだりしていればそれだけで皮膚の状態は悪くもなる!

岩崎 雅(水沢市・皮膚科医師) 胆江日日新聞社より