●感染性胃腸炎

 細菌やウィルスが原因で嘔吐(おうと)・下痢・発熱を来す場合を感染性胃腸炎と呼びます。ウィルスによる場合の方が多く、普通の風邪の原因となるウィルスでも、胃腸炎症状を引き起こすのは珍しくありませんから、ごくありふれた病気と言えます。

 しかし、胃腸炎を起こすウィルスの中で最も代表的なのはロタウィルスといって、主に秋から冬にかけて、主に乳児を襲います。激しい下痢、嘔吐、発熱が見られ、しばしば便は真っ白になります(白色便性下痢症とか冬季乳児下痢症とも言います)。この病気では、あっという間に脱水になる子が相当みられます。

 症状がひどければ点滴、時には一時絶食が必要になり、程度によっては入院して治療することもあります。軽ければ家で水分を十分に補給しながら様子を見ることになります。

 熱だけで子供がメロメロになることはあまりありませんが、水分摂取が不十分だと大人よりも早く脱水状態に陥るという弱点が子供にはありますから、ロタウィルス感染に限らず、嘔吐や下痢が加わっている場合は、なるべく早めにかかりつけ医に診てもらうことが大事です。特に繰り返し吐き続ける場合は、まさしく緊急事態です。

 また、「飲ませるとすぐに下痢をするから」と言って、水分補給を控えるお母さんが時々見られますが、子供は脱水になりやすい事を考えれば、(嘔吐さえなければ)むしろ積極的に与えましょう。完全に絶食にすれば、なるほど下痢は治まりますが、それと引き換えに子供を脱水にしてしまう結果になります。

 胃腸炎症状が落ち着くまでは入浴は控えるべきです。でも頻繁に下痢をすることで、たちまちお尻が真っ赤になるのは困りものですから、お尻だけはぬるま湯で繰り返し洗ってあげて下さい。

 細菌性胃腸炎はウィルス性よりも少ないのですが、原因は病原性大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ、カンピロバクターなどさまざまです。症状はウィルス性と似ていますが、血便が見られたら、細菌性の疑いが強まります(水洗式トイレは、目で見て便の異常に気づきやすい利点があります)。血便が見られたら要注意、それもほかの家族にも血便が見られたらさらに要注意ですから、家族全員お互いに確認しあって下さい。

 飲食物、水などとともに口から細菌が入ることで発病しますし(つまり食中毒です)、時にペットが関係することもあります。暖かい季節、と言っても必ずしも真夏ではなく、私の経験では赤痢が集団発生したのは真夏ではなく、春や秋だったという記憶があります。真夏よりも涼しい季節の方が食品衛生管理の点で多少気が緩むのでしょうか。どの季節であれ、鮮度に「?」の付く食品は避けることが賢明です。

 診断は便の培養検査で原因菌を発見するため、菌が消失するまで集団生活は禁じられます。病原性大腸菌、赤痢菌などの場合は、保健所に届けることが法律で定められており、保菌者(菌を持っているけれど症状のない人)を見逃さないために、家族全員の検査が行われます。

 治療はウィルス性の場合と基本的には同じですが、必要に応じて抗生物質も使われます。外来で治療を受ける場合、便に細菌が排出され、それが衣類などに付き、そこに触った人の手から口へ、という経口感染の形をとりますから、細菌性胃腸炎ではきちんと手を洗うことがことさら重要です。

 ウィルス性か細菌性かはさておき、嘔吐、下痢が始まったら、なるべく早めにかかりつけの病院へ。繰り返し吐いたり、全然飲めなくなった時に「様子を見る」は通用しません。便が真っ白だったり血便であれば、便そのものを(乳児ならオムツごと)持参すると役に立ちます。

半井 潔(水沢市・小児科医師) 胆江日日新聞社より