●りんご病

 こどものほっぺが、りんごのように赤くなるので、りんご病と呼ばれますが、正式には、伝染性紅斑といいます。伝染性?うつる病気なら幼稚園や学校はお休みしなきゃならないのかしら?とお思いになるかもしれませんね。でも、その必要はないのです。

 りんご病の病原体はヒトパルボウィルスB19というウィルスです。空気感染、つまり吸い込んだウィルスが、鼻の粘膜から体に侵入します。1週間の潜伏期間をおいて「血液中をウィルスが駆け巡るウィルス血症という状態になります。この時に、体の外にウィルスが排泄されて、他の人に感染させてしまいます。しかし、この時点では、ほとんどの子供は無症状で、ピンピンしており、何も知らずに幼稚園や学校に行っています。さらに1週間すると、抗体、つまりウィルスに対する免疫が作られてきて、ウィルスはほとんどいなくなってしまいます。それからさらに数日後、りんごのようなほっぺが出現するというわけです。ですから、ほっぺが赤くなってからは、患者を隔離する意味がないのです。

 子供の場合、症状は軽いのが普通です。両側のほっぺが、べったり赤らんで、少し盛り上がって軽くかゆみを感じます。よく見ると腕や太ももにもピンクのもやもやした、レース状といわれる発疹が出現します。臀部(でんぶ)や胴体にまで認めることもあります。淡い発疹なのですが、お風呂あがりの、ほてった体の時にはっきり見えます。発疹は、1週間で自然に消えます。何も治療はいりません。

 大人が罹患(りかん)すると、子供と違って症状が重いそうです。子供なら無症状ですごすウィルス血症の時に、寒け、発熱、頭痛筋肉痛などの自覚症状があり、発疹が子供ほどはっきりしないかわりに、四肢の関節が腫れて、痛む関節炎症状が出やすいそうです。自分の子供からうつされて発病したお母さんから「関節が腫れて痛くて、しばらく膝を曲げて座ることができなかった」とうかがったことがあります。

 りんご病のウィルスが、重大な問題をひきおこすことがあります。ひとつは、妊婦が感染すると、ウィルスが胎盤を通じて胎児に感染し、胎児に重症の貧血、そのための心不全をきたし、10%の確率で流早産をひきおこすことです。幼稚園や小学校に通う子供をお持ちのお母さん、これらの子供に接する保母さん、先生、看護婦などは、妊娠中に子供たちからりんご病をうつされないようにしなければなりません。

 ワクチンはなく、子供たちは無症状のまま、知らずに周りに感染させますので、予防は困難です。女性は妊娠可能年齢の前に、りんご病にかかっておくべきと思います。一度かかると免疫ができて、あとはかかりません。

 溶血性貧血という持病を持っている人も感染すると、赤血球がつくれない体になって大変なそうです。また、このウィルスが輸血用の血液にまぎれ込んでいても、それを検知したり除去したりはできないそうです。そのために白血病や免疫抑制剤を投与されている移植後の患者さんが、血液製剤からこのウィルスに感染した場合も、持続性の血球減少をきたして大変困ったことになるそうです。

板倉紀子(水沢市・小児科医師) 胆江日日新聞社より