●おたふくかぜ

 おたふくかぜは、正確には「流行性耳下腺炎」といいます。ムンプスウイルスというウイルスが原因で起こる病気で、だ液を介した飛沫(ひまつ)で感染します。耳の下にある耳下腺が腫れるため、ほっぺがふくらんで「お多福顔」になるのでこう呼ばれます。

 約2〜3週間の潜伏期間があり、耳下腺が腫れて痛みます。たいていは左右両方の耳下腺が腫れますが、片方だけの場合も珍しくありません。おたふくかぜは一生に1回しかかかりません。片側だけでも1回は1回です。同じ「だ液」を作る器官の顎下腺が腫れることもあり、この場合は顎の下も腫れてきます。熱はでることもありますが、あまりでないこともあります。

 残念ながら、おたふくかぜには特効薬はありません。症状に応じて、熱や痛みをおさえる薬を使う程度です。腫れた部分に湿布をはるのも良いでしょう。食事は、よくかまなくても食べるものを与えてください。酸っぱいものはだめです。お風呂は、症状が強くなければかまいません。腫れがひくまでは他の子にうつしますので、1週間から10日間はお休みです。

 おたふくかぜの合併症で主なものは睾丸炎と髄膜炎です。睾丸炎は、思春期以降の男性に多く、まれに不妊症の原因になります。髄膜炎では、高熱が続き、頭痛や嘔(おう)吐があります。

 おたふくかぜというのはムンプスウイルスによるほぼ全身の感染症です。主な症状が耳下腺炎である、ということです。合併症を防ぐ意味でも、元気にしていても腫れている間は安静にしていてください。

 おたふくかぜにはワクチンがあります。1歳以上の人は、任意で予防接種を受けることができます。90%程度の効果があります。受けたい場合は、かかりつけの先生と相談してください。

 おたふくかぜは、水ぼうそうほど伝染力は強くありません。保育園や学校で流行しても、かからない場合のこともあります。

 また、不顕性感染といって、感染しても症状が出ないこともかなりあります。この場合、知らない間におたふくかぜにかかっていることになります。それから、耳下腺が腫れる病気が、みな、おたふくかぜとは限りません。ムンプスウイルス以外のウイルスや細菌などが原因で腫れる耳下腺炎もありますし、原因がよくわからない「反復性耳下腺炎」という病気もあります。

 おたふくかぜの診断は実はむずかしいのです。確実に診断するには、血液検査で抗体の検査をします。ただし、症状が出てすぐに検査してもだめで、約2週間後がよいようです。

 この検査の結果が出るのにもう1週間ぐらいかかるので、血液検査は症状があるときの診断にはあまり役に立ちません。何度も耳下腺が腫れる人の場合、一度検査でおたふくかぜの抗体を調べておくとよいでしょう。抗体があるとわかれば、何回腫れようがそれはおたふくかぜではありませんから学校を休まなくてすみます。

及川 亨(江刺市・小児科医師) 胆江日日新聞社より