●風邪とインフルエンザ

 冬の到来とともに、老若男女を問わず、風邪をひく人が増えてきます。風邪の原因となるウイルス病原体は2百種類以上あるといわれています。ウイルスごとに少しずつ症状は違いますが、のどや鼻の呼吸器系の症状が主で、軽症なものを総称して「風邪症候群」と呼んでいます。

 ウイルスは上気道の粘膜から侵入し、鼻汁・鼻づまり・くしゃみ・微熱・のどの痛み・頭痛などの急性症状をひきおこします。また、ウイルスによっては、高熱・発疹・腹痛・下痢などの症状をしめすものもありますが通常4〜7日間で治ります。

 さて、風邪の蔓延するこのシーズン、忘れてならないのが、風邪の親玉インフルエンザの流行です。インフルエンザは、昔からよく知られた感染症で、1年を通して見られます。

 このウイルスは低温と乾燥を好み、通常の風邪ウイルスよりも感染力が強く毎年冬から春にかけて爆発的に流行します。また、インフルエンザウイルスは少しずつ変異するため、昨年の免疫が今年は効かないということが度々おこり、毎年流行を繰り返します。

 インフルエンザウイルスは、A、B、Cの3型がありますが、人に感染するのはA型とB型です。インフルエンザの症状は感染して1〜2日で、風邪症状とほとんど同時に39〜40度の高熱がでて3〜4日続きます。この間、悪寒・全身のだるさ・咳・筋肉痛・関節痛・腹痛・下痢などの強い全身症状を伴います。

 乳幼児は急激な体温上昇により熱性けいれんを起こすことがあり注意が必要です。また、まれにインフルエンザ脳症と呼ばれる重症型のインフルエンザでは不幸な転帰をとられる例もあります。したがって、乳幼児のインフルエンザではこまめに症状の変化を観察することが大切です。

 インフルエンザの合併症は乳幼児や老人に多く、基礎疾患(心臓病・糖尿病・気管支喘息など)をもっている場合はとくに注意が必要です。合併症としては気管支炎・肺炎・中耳炎・副鼻くう炎・筋炎・急性脳症・脳炎などがあります。

 インフルエンザウイルスを直接殺してしまう薬はありません。成人では早期投与で特定の型のインフルエンザに効果がある薬もありますが、小児ではまだ一般的ではありません。したがって、治療はかぜ症候群と同様に熱があれば熱さまし、痛みがあれば鎮痛剤といった対症療法が中心となります。身体を静かに休ませて体力を回復させてください。「食欲がないのはあたりまえ」ぐらいに考え無理じいする必要はありませんが、消化がよくのどこしのいいものを少しずつ与えましょう。

 水分の補給も大切です。とくに乳幼児では脱水をおこさないように十分に水分を与えてください。高熱期がすぎるとしだいに熱は下がりますが、咳・鼻汁が1週間ほどつづきます。解熱後すぐの登校はひかえ、激しいスポーツや部活動は休ませましょう。

 インフルエンザの予防は、ウイルスの蔓延しやすい人込みをさけ、乳幼児のいる家庭ではウイルスを家の中に持ち込まないよう手洗いやうがいを必ず行いましょう。

 また、体力の低下がウイルス侵入の引き金となります。シーズン中はことのほか生活のリズムを乱さないように心掛けてください。

 しかし、何といっても最高の予防法はワクチンの接種です。インフルエンザワクチンは、ウイルスの粒子を処理し副反応を起こす成分を取り除いた、不活化ワクチンです。他のワクチンを比べても安全性が高いといわれ、シーズンごとの流行状況を予測して製造されています。

 皮下接種されたワクチンは上気道粘膜局所でインフルエンザをブロックすることは出来ませんが、血液を介して感染を拡大しない効果があります。したがって、たとえ感染しても軽症で済ませることができるといわれています。

菊地登志子(江刺市・小児科医師) 胆江日日新聞社より