●更年期障害(1)

 人の一生は、年齢を重ねるにつれて身体的・精神的に成長と成熟・退行(老化)の道をたどります、すなわち小児期・成熟期・老年期で、小児期と成熟期の間が思春期であり、成熟期から老年期の移行期を女性の場合特に更年期といいます。

 更年期を定義するとこうなりますが、更年期障害は「更年期に現れる多種多様の症候群で、器質的変化に相応しない自律神経失調症を中心とした不定愁訴を主訴とする症候群」と定義されています。

 発生機序は加齢による卵巣機能の低下、特にもエストロゲン(女性ホルモン)の分泌衰退、中枢からのゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)分泌が著しく増加するなど、視床下部・下垂体・卵巣系のフィードバック機能などのホメオスターシス(平衡)の維持が卵巣機能の低下とともに崩壊します。

 一方この年齢時期の女性は社会的にも職場自宅周辺との複雑な人間関係とか責任の増大、配偶者がかまってくれなくなるなど社会心理的ストレスが増大します。また生理不順とか老化を意識する時期でもあり、そこには性格もある程度関係しますが心因的または環境的要素と女性ホルモン失調・分泌の低下が複雑に絡み合って自律神経の失調をきたし発生するということになります。

 「自律神経失調症」は女性に限ったことではなく、また発症年齢も中高年とは限りません。中高年の自律神経失調症ももちろんありますが、更年期障害とは発生機序でエストロゲンの関与が有るか無いかで区別出来ます。

 「更年期障害」の症状としては自律神経失調症と同じ「不定愁訴」といわれるさまざまの症状を呈します。主なものとしては、イライラする・ボーッとして気分がすきっとしない・肩が凝る・だるい・めまいがする・ほてる・集中できない・なんとなく自分の体で無いような感じがするなど多岐にわたります。

 この他にも多種多様の症状がありますが表現に苦労するくらいです。これらは器質的な疾患が見つからず(どこか悪い場所があるという訳でなく)整形外科では「筋肉痛でしょう」とか「五十肩でしょう」といわれて筋肉痛の治療をしたり、たいがいの方は内科に行くようですがそこでは「自律神経失調症」でしょうといわれてマイナートランキライザーなどの処方をしてもらうようです。ある程度は良くなるでしょうが原因の一つであるホルモンアンバランスの補正なしでは「スッキリした」というところまでの効果は期待できません。

 また、ホルモン治療なしで完治した場合はそれは更年期障害ではなく本物の「自律神経失調症」だった可能性があります。逆に治療的検査としてホルモン治療を行ってみて「うそみたい」に症状が取れればそれは当に更年期障害といえます。ホルモン療法を除けば基本的に両者の治療方法は同じで対症療法が基本となります。

 これらの症状にはほとんど気にかけない程度から日常生活・仕事に支障をきたしたり、場合によっては精神科に入院治療しなければならないなどの段階があります。そのうち、日常生活・仕事に支障をきたす場合以上が治療の対象となります。自分では気が付かない場合でも周りから進められて治療し、「年のせいでこんなもんだと思ってましたが、すっかり気分よく元気になりました」と言ってくる患者さんもいます。

 次回は治療についてお話しします。

小見 克夫(水沢市・産婦人科医師) 胆江日日新聞社より