●胃・十二指腸潰瘍(かいよう)とピロリ菌

 ★潰瘍とは★

 胃・十二指腸潰瘍は胃液により自己消化を受けてできるため、消化性潰瘍(以下潰瘍と略します)と呼ばれています。潰瘍は、胃の表面を覆っている粘液などの防御因子と胃液にふくまれる塩酸やペプシンなどの攻撃因子のアンバランスから起きると考えられています。攻撃因子の塩酸やペプシンを増やすにはストレスがかかわっています。ストレスを感じると、副腎皮質ホルモンや迷走神経を介して、塩酸やペプシンの分泌が亢進(こうしん)し攻撃因子が高まり、さらに内臓神経を介して胃の粘膜の血流を低下させることにより防御因子を低下させます。防御因子を抑えるものとして、コーヒー、たばこ、多量の飲酒、香辛料、消炎・鎮痛剤などがあります。これらの作用で潰瘍ができます。潰瘍の治療は、胃液の分泌を強力におさえるH2ブロッカーとPPI出現により簡単にできるようになりました。


 ★ピロリ菌とは★

 今までの治療で、再発を抑えることは十分ではありませんでしたが、10年位前より、潰瘍の再発とピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)との関連が指摘されていました。ピロリ菌は1979年オーストラリアの病理学者ウォーレンが見つけだし、4年後には医師マーシャルが培養に成功しました。その後の研究で潰瘍の再発に深くかかわっていることが明らかになりました。


 ★どうして胃のなかで生きられるか★

 胃のなかには、強い酸である胃液が存在するため、普通の細菌は生息できません。ピロリ菌はウレアーゼという酵素を利用し、ピロリ菌の周辺をアルカリ性の環境にすることができるので、胃液を中和することにより胃のなかで生きることができます。


 ★ピロリ菌の感染について★

 感染経路はまだはっきりとわかっていませんが、経口感染が大部分であろうと考えられています。日本人は約6千万人が感染していると考えられています。

 若い人の感染率は低いのですが、40歳以上では80%が感染しています。発展途上国では10歳までに90%が感染します。ピロリ菌の感染率は、衛生環境と関係していると考えられています。上下水道が十分普及していなかった世代や国で高い感染率となっています。


 ★ピロリ菌に感染すると★

 ピロリ菌に感染すると胃に炎症をおこしますが、ほとんどの人は症状を自覚しません。潰瘍の患者さんの約90%がピロリ菌に感染しています。ピロリ菌が潰瘍の発生や難治性、特に再発と関係していることがわかっています。


 ★除菌について★

 今までの治療では潰瘍の再発を抑えることは十分でなく、再発するたびに治療が必要でした。薬を服用することでピロリ菌を退治する治療を除菌療法といいます。潰瘍の人がピロリ菌に感染している場合、除菌療法を行うことにより、完全ではありませんが、再発を大部分抑えることができます。ただし、除菌に成功しても一部の人には再発が認められます。


 ★除菌の対象は★

 ピロリ菌に感染しているすべての人が除菌療法を受けなければならないわけではありません。日本人のピロリ菌感染者は約6千万人いますが、ほとんどの人は、症状もなく、健康に過ごしています。除菌療法の対象となる人は、潰瘍の患者さんでピロリ菌に感染している人です。除菌療法は副作用もありますし、潰瘍の患者さんがすべてする必要はありませんので、主治医とよく相談することが必要です。


 ★除菌療法について★

 潰瘍の患者さんに対して検査を行いピロリ菌がいることを確認してから除菌療法を行います。また、内視鏡検査で胃がんでないことを確認することも重要です。ピロリ菌の除菌療法は二種類の抗生剤と胃酸の分泌を抑えるPPIという薬の合計3剤を同時に1日2回、7日間服用する方法です。治療が終了した後、4週間以上たってから、ピロリ菌が除菌できたかどうか、確認する必要があります。正しく薬を服用すれば、ピロリ菌の除菌は85%位の確率で成功します。


 ★除菌療法の副作用★

 軟便や下痢、食べ物の味がおかしいと感じたり、苦みや金属のような味を感じたりする味覚異常があります。肝機能に異常が現れることもあります。便に血が混ざっている時は直ちに薬の服用を中止し主治医に連絡してください。

 昨年の12月からピロリ菌の除菌療法が保険でできるようになりました。この除菌療法で80%位は再発がなくなります。除菌療法を希望の方は主治医とよく相談してください。

加藤 泰之(金ケ崎町・内科胃腸科医師) 胆江日日新聞社より