●前立腺(せん)肥大症(2)

 ★前立腺肥大症の症状★

 老いも若きも一緒にバス旅行し、トイレタイムをとった事を想像して下さい。シニア連中はおしっこが近いから、大抵バスから足早にトイレに向かいます。そして放尿中に若い人が遅れて来ますが早々と放尿終了、トイレを後にします。こんな情景は珍しくありません。これはシニア連中が前立腺肥大症が始まったためと診断して間違いないと思います。

 この排尿がうまくいかないのを排尿困難とか排尿障害と名付けられていますが、これにも二種類があり、排尿が始まるのに時間がかかるのを遷延性排尿、排尿するのに時間がかかるのを苒(ぜん)延性排尿といい、尿線が細くなるのが普通です。排尿障害の症状によって病期は三期に分けられます。

 第I期(刺激期)…大きくなり始めた前立腺による刺激症状として、尿道の不快感、頻尿(特に夜間)尿線の細小化に気づきます。40歳代後半から50歳前半に認められ、前述の遷延性排尿、苒延性排尿も軽度に認められます。

 第II期(残尿発生期)…排尿障害が次第にひどくなり、排尿後、尿が残るようになります(残尿)。この時期は飲酒、便秘、寒冷、性交等で症状が増悪することがあります。

 第III期(慢性尿閉期)…残尿はますます増加し、ひどくなると尿をもらすようになったり(失禁)、全く排尿されなくなります(尿閉)。この時期が長期にわたると腎臓(じんぞう)にも悪影響をきたします。

 さて、泌尿器を露出する事はだれしも羞(しゅう)恥心をもっています。医学では男性のシンボルをペニスと称します。この言葉はドイツ語ですが羞恥心をカバーするのに便利なためか、最近では外来の患者さんもよく使用しているようです。こういう外来語はあいまいな所がなく、分かりやすく、ひびきもいいから、一般にも常用されるようになったのでしょう。大変いい傾向だと思います。

 ★診断★

 前立腺は乳腺(せん)やペニスのように直接見えるところではないので、診断にはそれなりに苦労しますが、患者さんにも苦痛を与える検査もあります。以下に列挙してみましょう。 @直腸内触診…肛門から指で前立腺をさぐる検査です A残尿測定…排尿直後膀胱(ぼうこう)内の残尿をゴム管を挿入して採取し、その量を計ります。超音波検査を利用することもあります B尿道膀胱鏡検査…ペニスから鏡を入れて見る方法です。そのほか、X腺検査、超音波検査、尿流測定等いろいろな検査が必要に応じて行われます。

 ★治療★

 手術療法と薬物療法に大別されますが、前立腺肥大症の患者さんは高齢者が多く、高血圧、心疾患、糖尿病等の合併症がある例も多いので、その症例によって、安全な方法が選択されます。

 手術療法は、前立腺切除鏡という器具をペニスから挿入し、高周波電気メスで前立腺を切除する方法が現在の主流です。そのほか、下腹部にメスを入れ、前立腺を摘出する手術や、レーザーを使う方法、さらに熱による焼灼法等いろいろな療法がありますが症例によって選別されます。

 最後に薬の副作用で排尿障害を起こすことがありますので、そのことに触れてみます。

 せきどめや感冒薬、腹痛の薬等で排尿障害を起こすのは時々見受けられます。さらにうつ病の薬や精神安定剤等でも時々頻尿、残尿感、ひどい時は尿閉を起こすので、薬を服用している人は一応御留意ください。もし、薬の服用後、排尿にいろいろと症状が出たら、かかりつけのドクターに、早めに相談して下さい。

野呂 甚吾(水沢市・外科・泌尿器科医師) 胆江日日新聞社より