●前立腺(せん)肥大症(1)

 前立腺というと今でもすぐ思い出されることがあります。今から30数年前のわたくしの学生時代の話です。当時は泌尿器科は外科の講師の授業でしたが、講義態度が妙に固そうに感じたものです。「人間、排便、排尿など排せつは大切な生理で、かつ、快感を伴うものです。シニアで排尿障害があったらまず、前立腺肥大を疑いなさい」との講義が妙に耳朶に残っているのが不思議です。


 ★前立腺の解剖★

 前立腺とは膀胱(ぼうこう)を出てすぐの所に、尿道をとりまいている重さ16g位の小さな器官です。尿道に近い所を内線といい、外側の部分を外線と呼びます。この内線の部分が肥大したのが前立腺肥大の本体で、尿道を圧迫して、尿の出を悪くし、ひどい場合は尿閉といって、尿が全く出ない状態にさえなるのです。一方、外線も圧排されてうすくなり、膜状になります。一言、追加すると前立腺癌は外線から発生すると言われています。

 断っておきますが、この前立腺は、男性にのみあって、女性には存在しない器官だという事は記憶して下さい。


 ★前立腺の働き★

 前立腺は前立腺液を分泌して、精液の20%弱を占めています。そして精液中の精子の生存や運動に関与し、精子が卵子に到着するのに重要な役割を演じているのです。


 ★前立腺肥大症の原因★

 はっきりしませんが、男性ホルモンが関与しているのは間違いないようです。その証拠として、若いときに去勢されると前立腺肥大症は発症しないし、前立腺肥大症になっても、去勢されると症状が寛解されるからです。前述の、大学での授業時間でも若い講師は「君らの中で精力の強いヤツは、肥大症になるかも知れないから、記憶しておくように」としゃあしゃあと話していたのが、妙に脳裏にきざまれています。かなり昔から男性ホルモンが関与しているというエピソードです。


 ★前立腺肥大症と年齢★

 肥大症は、40歳代で30%以下、50歳代で35%、60歳代で45%、70歳代で60%が発症すると言われています。つまり、初期の肥大は40歳半ばで形成され、加齢とともに増加すると考えてよいでしょう。ただし、治療を必要とするのはさらに、その30%以下と考えられています。

野呂 甚吾(水沢市・外科・泌尿器科医師) 胆江日日新聞社より