●パーキンソン病(1)

 パーキンソン病の原因は、十分には解明されていませんが、少しずつ明らかになってきました。早期発見と適切な治療により、健康な人と変わらない日常生活が送れるようになりました。現在日本のパーキンソン病患者は十万人と推定され、高齢化に伴って今後さらに増加する可能性があると考えられています。

 この病気は中高年に多い病気です。一番多い発症年齢は50歳代ですが、最近では60歳代で発症する人が増え、70歳から80歳にかけて発症する人もまれではありません。では、主な症状とはどんなものかといえば、運動症状が特徴的で、振戦(ふるえ)、筋固縮(手足が固くなる)、無動・寡動(動作がゆっくりとなる)、姿勢・歩行障害(身体のバランスが悪くなる)は四大症状といわれています。これらの運動症状のうち、安静時振戦はパーキンソン病に特有のもので、他の病気にはあまり見られません。筋固縮や無動・寡動はパーキンソニズム全般にみられ、パーキンソン病に特異的な症状ではありません。

 自律神経症状には便秘、排尿障害、起立性低血圧、発汗異常などが、精神神経症状には抑うつ、知能低下などがあります。その他、脱力感、手足の変形などの症状が現れることもあります。

 パーキンソン病は脳の中脳という部位の中で黒質の神経細胞が脱落、あるいは変性し、ドパミンが減少して起こる病気です。ドパミンとは神経伝達物質の一種で、中脳の黒質の神経細胞で産生されます。この神経細胞は大脳の線状体(淡蒼球・視床など)に枝を延ばしており、そこでドパミンを分泌し情報を伝達します。ところがドパミン産生量が減少すると神経細胞から分泌されるドパミン量も減少します。このドパミン不足によって、指令がうまく伝達されなくなると、運動系の症状などさまざまな障害が生じることとなります。

 中脳にある黒質の神経細胞がなぜ、脱落・変形するかについては、今のところ不明です。つまりパーキンソン病の原因は不明ということになります。


 ★パーキンソン病の診断★

 この病気は症状がゆっくり進行するため、患者さん自身は気がつかないことがあります。診断は厚生省特定疾患・神経変形疾患研究班のパーキンソン病診断基準に沿って行います。読者の皆様が自分の症状をこの疾患かなと疑ってみることが重要ですので、特徴的な症状を詳しく述べます。

 ▽振戦:パーキンソン病の特徴的な振戦は @安静にしている時に現れます A物を取るなどなにか動作をすると弱まるか消えてしまいます B毎秒四〜六回の頻度で規則的にふるえます C最初は手足やあごに現れます D親指と他の指をすりあわせます。丸薬をまるめる、貨幣を数えるような指の動きをします Eふるえの現れ方に左右差があります Fふるえが片側の上肢に始まり数カ月して同側の下肢→反対側の下肢→同側の下肢のように広がっていきます。

 ▽筋固縮:これは外から加わった力に対する抵抗で患者さん自身は気付きません。四肢をリラックスさせた状態で関節を動かした時に感じる抵抗感です。他人がやって分かることは @手足を曲げると最初から最後まで同じような抵抗(鉛管様筋固縮)や、ガクガクと規則的な抵抗を感じます A左右差があります B筋肉が常に緊張しているので、筋肉の痛み、こわばり、ひきつりを感じます C頭部を前後に曲げたり、回したりするとガクガクと規則的な抵抗を感じます。

 ▽無動・寡動…特徴的なものは @日常生活の何気ない動作が乏しくなります A動きはじめるのが難しくなります B何をするにも動きがゆっくりとなります C歩くときに手の振りがありません Dまばたきが少なくなります E表情が硬くなります(仮面様顔貌) F話声が単調で低くなります G身ぶり・手ぶりの動作が少なくなります H寝返りができにくくなります I着衣やぼたんかけが下手で遅くなります。

 ▽姿勢・歩行障害…特徴的なものは @後ろへ転びやすくなります A姿勢が前かがみになります(上半身を軽く前屈し、手を体の前にたらし、膝を軽く曲げた姿勢) B歩いているときに倒れやすくなります C段差のある所で倒れやすくなります D摺(す)り足で小刻みに歩くようになります E狭い所や広い所で足がすくんでしまう F歩きはじめの一歩が出にくく、いったん歩きだすと上体が前にのめり、かけだすように早足となり、停止や方向転換がうまくできず転んでしまいます G話す言葉が早く、どもります。

 これらの症状に気付く方は一度かかりつけ医に相談するとよいと思います。パーキンソン病は現在のところ完治させることはできませんが、症状を改善することによって、健康な人と同じように社会生活を送ることはできます。そのためには、早期診断が重要です。

 次回は治療について解説します。

冨田 幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より 

 

yougo.gif (1658 バイト)

パーキンソニズム

 振戦、筋固縮、無動・寡動、姿勢反射障害などの症状を示す病態をパーキンソニズムといい、原因が不明である特発性パーキンソニズム(パーキンソン病)と、原因が明確で2次的に起こる症候性パーキンソニズムがある。後者は、脳血管障害などの病気や薬剤によって線条体でのドパミンの作用が悪くなった時に起こるもので、パーキンソン病とは違う別の病気である。