●高脂血症と動脈硬化(2)

 ★なぜ高脂血症が悪いのか★

 はじめに前回の復習を少ししてみます。血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと次第に血管壁の中にたまってきて、その結果、血管の中が狭くなり内側を覆っている薄い膜(内皮)を圧迫します。一方、血管の内側から高い濃度のコレステロールにさらされると、内皮は弱くなっていきます。これらの結果、内皮に亀裂が入ってその場所に血の塊(血栓)ができ、血管をふさいでしまうのです。


 ★高脂血症とは★

 血液中の脂質(その代表がコレステロールと中性脂肪です)が高い状態をいいます。コレステロールには悪玉(LDL)と善玉(HDL)があり、総コレステロールとは両者を足したものです。中性脂肪はトリグリセリドともいいます。悪玉コレステロールと中性脂肪は当然低いほうがいいのですが、善玉コレステロールは血管壁にたまったコレステロールを抜き取る作用があるので、逆に高いほうが好ましいのです。しかし、日本人には十人に一人くらい正常より高い人がおり(これは体質からくるものです)、こういう方のHDLは正常な働きをしないことがわかっているので、注意が必要です。したがって、コレステロールはLDLとHDLに分けて測定すべきなのです。

 それではどのくらいの数値が望ましいのでしょうか。コレステロールは食事から影響をあまり受けないので食後採血でもかまわないのですが、中性脂肪を正確に評価するには十二時間以上の絶食の後での採血が必要です。総コレステロールが二二〇を超えると高コレステロール血症の疑いがあります。そうしたら次に悪玉(LDL)コレステロールを直接測定もしくは診断します。悪玉が一四〇を超えていたら高コレステロール血症と診断します。HDLコレステロールは四〇〜八〇が正常範囲です。中性脂肪は一五〇以上を異常と判定します。


 ★治療目標★

 悪玉コレステロールが最も重視されます。危険因子のない人であれば一四〇以下を目標とします。糖尿病や高血圧などの危険因子をもっている方は一二〇以下を、すでに心臓病のある人は一〇〇以下をめざします。食事、運動療法などにより平均一〇〜二〇%くらいの低下が期待できますが、こういう努力のみではなかなか目標を達成できません。この場合、薬物療法を考慮します。最近ではいろんなすぐれた薬剤が使用可能となっています。悪玉コレステロールの高い低いも体質に大きく依存していますので、ひとりひとり治療法が違って当然です。

 HDLは運動、禁煙、そして中性脂肪を下げることによって少しは上がります。HDLは四〇以上が望ましいとされています。HDLは異常に高い方でも無理に下げる必要はありません。中性脂肪は一五〇以下をめざします。

 食事では総カロリーの抑制(要するに食べ過ぎないこと)が大事です。よく、油物をほとんど食べていないのに中性脂肪が高いとぼやく患者さんがいます。何でも食べ過ぎたものは脂肪に変えて蓄えられ、ひいては血液中の中性脂肪の上昇をもたらすということを知ると合点がいくでしょう。あと、運動、アルコールの制限、肥満の解消によっても中性脂肪は下がります。こういう努力をしてもどうしても下がらない人もいます(体質の問題です)ので、お薬の助けを借りるのもいいでしょう。かかりつけのお医者さんと良く相談して下さい。


 ★最後に★

 高脂血症を治療する目的は動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞(こうそく)を予防することにあります。しかし、いままで述べてきましたように動脈硬化にはさまざまな危険因子があって、お互いに複雑に絡み合っています。

 さらには、危険因子では説明できない発病も多いのです。各個人においてどういう予防法、治療法が最良なのかを決めるのはとても難しい問題です。身体的・精神的健康度、社会的・家庭的健康度、さらには個人の健康観や価値観などすべてが関係するので、かかりつけ医と良く相談したうえで最終的には自らの責任において選択していくことになるでしょう。高脂血症や動脈硬化という病気はこういう性格の疾患であるということを再認識してこの稿を閉じます。

鈴木 教敬(水沢市・内科医師) 胆江日日新聞社より