●高脂血症と動脈硬化(1)
★動脈硬化とは★
動脈硬化というと、いわゆる脳軟化あるいは痴ほうを連想される方も多いかと思います。しかし本来、動脈硬化とは、血管が固くなり、かつ血管の中が狭くなって血液が流れにくくなる病気です。したがって全身に起こる病気なのです。世界的に見ると、動脈硬化といえばその代表選手は心筋梗塞(こうそく)です。日本においても近年、心筋梗塞で亡くなる方がどんどん増えてきています。これは生活習慣の欧米化に深く関連していると考えられています。
★どのようにして血管は詰まってしまうのか★
十年くらい前までは次のように考えられていました。何十年もかけてゆっくりと血管の中が狭くなってきて、そして最後には詰まってしまって血が流れなくなるのだと。しかし最近では、血管の内腔が狭くなってくる途中で血管の内側を覆っている膜(内皮といいます)の一部が破れて、血の塊(血栓といいます)が一瞬のうちにできて血管をふさいでしまうというふうな学説に変わってきました。ですから、病気を防ぐには内皮に傷がつかないようにすればよいわけです。
★危険因子とは★
血管の中を狭めたり、内皮に傷をつけたりする原因をいいます。たくさんの因子が知られていますが、そのなかでも、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙が四大因子と呼ばれ重要視されています。コレステロールや血糖や血圧がいくら高くても、それ自体で命を脅かされるということはめったにありません。要は余病(合併症)がこわいのです。
その代表格が動脈硬化性疾患である心筋梗塞なのです。また、個々の危険因子は軽度でも(例えばコレステロールが少しだけ高いとか)、多くの因子が集積すると相乗効果で心筋梗塞を起こす危険が何倍にも跳ね上がります。典型的な例はおなかの出た運動不足の中年以降の男性に見ることができます。
こういう人たちをよく調べると、高脂血症、高血圧、糖尿病、肥満、高尿酸血症、喫煙、運動不足、仕事熱心(タイプAの性格といいます)などの危険因子をもっていることが多いのです。モーレツ仕事人間がなんの前触れもなく突然死してしまったというのを見聞きしたことがないでしょうか。世の中ではよく過労死とかポックリ病とか呼ばれていますが、その原因は突然起こった心筋梗塞であることが多いのです。ビア樽のような体形からもわかるように、腹部内臓に脂肪がたまった状態であり、内臓脂肪症候群と呼ばれています。内臓脂肪はいろんな危険因子を引き起こす諸悪の根源なのです。
★生活習慣病ということば★
以前、成人病と呼ばれていたものが、最近、生活習慣病という名前に変わりました。この言葉はややもすると誤解を招くので、少し解説を加えたいと思います。病気というのは体質(遺伝要因)と環境要因(その代表が生活習慣です)が相まって発症するものです。
確かに高脂血症や糖尿病が生活習慣の影響をより大きく受けやすいのですが、個々の例を見てみますと、ほとんど同じ食事、運動などの生活を送っていても、太る人もいれば太らない人もいる、コレステロールが高い人もいれば低い人もいるといったようにさまざまです。つまり体質が違うのです。病気の人を捕まえて『あなたは生活習慣が悪いからそんな病気になったのよ!』などと非難するようなことは、くれぐれも慎みたいものです。
★動脈効果を防ぐには★
危険因子を少なくしていくことです。現在の医療では、危険因子をいっぱい抱えながら動脈効果を抑える夢のような治療法はありません。しかし、個々の危険因子をひとつひとつ解消しようとするのは、効率が悪いばかりでなく間違った発想といえます。
生活習慣を改善して内臓脂肪を減らすと、コレステロール、血糖、血圧などがいっしょに改善される場合が多いことからもお分かりいただけるかと思います。食事、ストレス、仕事、睡眠など、生活習慣で改善できるところから努力してみるのが本道でしょう。しかし各個人には異なった体質があり、また多様な価値観や人生観があるのも事実です。これらを全て勘案したうえで、ひとりひとり固有の予防法、治療法を立案、選択していくことが今後求められるだろうと考えています。
★高脂血症について★
心筋梗塞の最大の危険因子であるといわれている高脂血症については、次回に解説したいと思います。
鈴木 教敬(水沢市・内科医師) 胆江日日新聞社より