●高齢者の肺炎

 前回は免疫力(体の抵抗力)がいかに大切かをお話しました。今回は高齢の方々の肺炎の特徴をいくつか述べることにします。

 まず肺炎の症状として一般的なものは咳(せき)・痰(いわゆる膿性痰といって黄〜緑色を帯びた痰)・発熱など、肺炎がある程度ひどければ呼吸困難、あるいはのどがぜろぜろする、などがあります。しかし高齢の方では、咳を欠く場合もありますし、痰をうまく出せないため痰も出ないという事もあります。

 極端な例では、ちょっとした微熱と何となく元気がないというだけで肺炎という事もあります。また食事中、あるいは食後より急に呼吸が苦しいといって肺炎を起こしている事もあります。これは大体が誤飲性肺炎といって食べ物、あるいはだ液、あるいは吐いた場合などは胃液などが肺にはいってしまうために起こる肺炎です。食べ物は通常、胃・腸にはいれば大切な栄養源ですが、肺の中は非常にきれいな所で、肺からみれば自分のだ液・胃液なども、ましてや食べ物も細菌の固まりなのです。

 また誤飲性肺炎にはもうひとつの原因があり、それは不顕性誤飲というものです。不顕性誤飲とは、しらずしらずのうちに少量のだ液や胃液を肺に吸引してしまう事をいいます。不顕性誤飲を起こす原因としては脳梗塞(こうそく)が最も多いといわれています。脳梗塞の中には自分ではあきらかに発作を起こした事がなくても、頭のレントゲン(MRI)をとるとわかりますが、小さな梗塞(ラクナ梗塞)が多発している場合も不顕性誤飲を起こす原因となります。

 では誤飲を防ぐにはどうしたらよいのか。残念ながら決定的な事はありません。しかし以下の事項には注意をして下さい。

(1)食事のスピードはゆっくりと。一回口にいれたものを完全にのみこんでから次の食べ物を口に入れる。一回口に入れる量を少量ずつにするなど。

(2)食事に集中できる環境にする。テレビはできるだけ消す。周囲の騒音をできるだけ少なくする事など。

(3)歯の具合の悪い人は歯科医で適切な治療を受ける。たとえば入れ歯があわないとか歯が欠けている事なども誤飲の原因となります。

(4)口の中を清潔に。できれば毎食後歯みがき、あるいは入れ歯の洗浄を。前号で述べましたように口の中には常に細菌がいます。食べかすなどがその細菌の繁殖を増長します。

(5)特に体の不自由な人ですが食事中はもちろん食後もできれば、1〜2時間くらいは座位を保持する事。寝たままの姿勢で食事をさせる事は大きな誤飲の原因となります。

 以上の事は、本人はもちろんですが、介護が必要な高齢の方では介護をする方への注意事項となります。脳卒中(特に脳梗塞)の既往のある方は参考にして下さい。

 最後に肺炎の治療について述べます。第一は、やはり抗生物質(化のう止)の投与となります。確かに抗生物質は細菌には効きます。しかし前にも述べましたように体の免疫力なしでは細菌をやっつける事はできませんし、また最近、耐性菌の問題も出ています。耐性菌というのは、Aという細菌がいてそれに対しBという抗生物質を使用したとします。しかし細菌もしたたかな生き物ですので、Bの薬が効かないCという細菌に形を変えていきます。それに対してDという抗生物質を使用すると今度はBもDも効かない形に細菌が変化して結局は全く薬の効かない細菌が出現する事もあり治療に難渋する事が度々あります。

 したがって肺炎も予防に勝る治療なしという事になります。(1)かぜを引かないようにする(特にインフルエンザ)。(2)免疫力を高めるようにバランスの摂れた食事、適度な運動をする。(3)誤飲に注意する。(4)咳や発熱がなくても不活発・食欲不振等様子がおかしければ早めに医療機関を受診する。などが大切と思われます。

 最後に、免疫力を高める方法として「高齢者を精神的に落ちこませない−非難するより、ほめなさい」と書いてある文献がありました。私もなるほどと思いました。

谷口 幸彦(水沢市・内科医師) 胆江日日新聞社より