●かぜとインフルエンザ(1)
かぜは人間一生涯のうちにだれでも数度は罹患(りかん)するポピュラーな疾患です。かぜの原因は、ほとんどがウィルスという生き物で、肺などの呼吸器系・胃腸などの消化器系に感染することによっておこります。呼吸器系に感染すれば当然咳(せき)・痰(たん)などの症状が出現しますし、消化器系に感染すれば悪心・嘔吐(おうと)・下痢という症状が出ます。また鼻・のど(咽頭・喉頭)に感染すればくしゃみ・鼻づまり、のどの痛みという症状が出ます。熱は出る場合もあり、出ない場合もあります。
では、ウィルスというのは何かといいますと、微生物のなかで最小の感染性因子…つまりわかりやすくいえばとても肉眼ではみることのできない大きさで人から人へ移動して、かぜなどの病気を起こす生き物と思って下さい。これに対して細菌は顕微鏡などを使えば、肉眼でもみえる大きさの物です。ウィルスと細菌はよく混同されがちですが、基本的には全く別物です。ただかぜ…つまりウィルスによって体が弱った状態の時に細菌も体にはいってきて両方同時に感染を起こし、肺炎などになることもありますので話が少しややこしくなります。
ウィルスと細菌の大きな違いは、一般に細菌の方が重症化しやすく、時に肺炎などで致死的になることがあるのに対し、ウィルスのみでは致死的になることは少ない(後述するインフルエンザは除きます)ということと、細菌に対しては抗生物質 −いわゆる化膿(かのう)止といって皆さんも抜歯後やあるいはかぜで医療機関より処方されたことが一度くらいはあると思います− が効くということ、しかしウィルスをやっつける薬はほとんどないということです(ウィルスでも水痘ウィルスや、インフルエンザウィルスに一部効く薬もありますが)。
したがってかぜの治療はというと、主に対症療法(症状に応じた治療)ということになります。つまり咳が出ていれば咳止めを、痰がからむときは痰を切れやすくする薬、熱があればそれに応じて熱さまし、食欲がなくて脱水があれば点滴などを行います。基本的にウィルスは体の免疫(抵抗)力で排除するのです。
ここで少し話は変わりますが、昔からよく「かぜは万病のもと」と言われます。これには、大きく二つの意味があると思います。一つはかぜをきっかけに肺炎、まれに脳炎など重篤な疾患に発展していくことがあるということ、もう一つの意味は、もともとかぜ以外の病気があり、あたかもそれがかぜの初期症状と似ていることがあり、患者さんがかぜと思いこんでいることがままあることです。
前者の例としては、かぜに伴い肺炎を起こしたとしても症状は咳・痰・発熱とかぜとあまり違いはないのですが症状が何日も軽快しない、あるいは増悪していくとき、あるいは痰の色が次第に黄色〜緑色になってきたなどのときは要注意です。高齢になりますと、発熱があまりないのに食欲が落ち、いつもより元気がないということで連れていらして肺炎を起こしていたということも決して珍しくありません。
後者の例としては、倦怠感(けんたいかん)、微熱などのかぜ症状で来院、実は急性肝炎だったり、肺がんだったりということもあります。
前に述べたように純粋にかぜとなれば、極端な話、ウィルスは必ず体がやっつけてくれますので昔から言われる通り、「栄養をつけて寝ていればよい」ということになります。しかし単なるかぜかどうかの判断はわれわれ医師でも難しいときがあります。特に高齢の方で、38度以上の発熱がある場合は、肺炎など合併していることもあり、注意が必要です。つまり特に高齢の方は、自己判断で「かぜ」と判断せず、比較的高い発熱や、食欲不振などつづいた場合は早めに一度は、医療機関を受診した方が、無難と思います。
一番いい方法はかぜをひかないことです。外出後はよく手を洗い、ていねいなうがいなどをして、普段より栄養と十分な睡眠が必要です。しかし最もよい方法は、かぜが流行したら、人込みにはいかない、つまりかぜをひいている人とは接しないということです。逆に、かぜをひいていると思った人は外出しない、デイサービスなども休むといった配慮が必要だと思います。
以上まとめますと(1)単なるかぜと自己判断しないこと(2)症状がつづけば、早めに医療機関で受診すること(3)予防に勝る治療なし…かぜの流行期は必要以外、人込みの中にいかない(4)かぜをひいている間は、自分も人込みに行かないこと、などが重要と思われます。
次回はインフルエンザおよびワクチンについて触れる予定です。
谷口 幸彦(水沢市・内科医師) 胆江日日新聞社より