●変形性膝(ひざ)関節症
手元の教科書をひも解くと、「変形性関節症は関節軟骨の退行性変化とそれに続発する軟骨、骨の増殖性変化により関節変形と機能障害をきたす疾患」とあります。これだけではなんのことかさっぱりわかりませんね。
キーワードは「退行性変化」にあります。退行性というは体の器官が少しずつ衰えて元には戻らない、ということです。一番代表的な退行性変化が老化です。そう思って読むと少しわかります。
膝の軟骨が何らかの原因で傷つきます。その過程で先週述べたように水がたまることもあります。初めのうちは修復されますが、何度も繰り返しているうちに削れて修復されない部分が出てきます。さらに、周辺の軟骨や骨が変に盛り上がってきて関節全体の変形が起こり、元の形には戻らなくなって、歩いたり正座することがつらくなり、階段の上り降りが痛くて不自由になります。これが変形性膝関節症です。
原因として一番多いのがやはり老化によるものです。そのほかに外傷、リウマチなどの病気によるものがあります。後者は偶然も関係しますので仕方ない面もありますが、老化が原因の場合はある程度予防できることがあります。「老化なのに予防可能」だとは不思議に思うでしょう。でもそうなのです。老化そのものは防げませんが、老化による膝の変形は防げるのです。
日本人の膝で軟骨が傷つくのは内側が大多数を占めます。これは日本人にO脚、つまりがに股気味の脚の人が多いからです。ちょっと頭の中でイメージしてみてください。2本の筒を縦に重ねます。つなぎ目をどちらかに曲げて「く」の字にしてみましょう。上下の筒が接しているところは「く」のでっぱった方の反対側です。O脚は膝の外側にでっぱりがあります。ですから内側が接するところになります。そこに負担がかかり軟骨が傷つきやすいのです。傷ついてすりへってくるとますますO脚が進み、さらに傷つくという悪循環になってしまいます。膝が痛くて来院した人のレントゲン写真を撮るとたいがい内側が悪くなっています。
では進行を抑えるにはどうしたらいいでしょうか。一つはだれでもすぐに思いつくでしょう。体重を減らして膝にかかる負担を少なくすることです。体重はかなり影響があります。ただ、既に太っている人にとっては(何を隠そう私自身がそうなのですが)体重を減らすのはなかなか容易なことではありません。
もうひとつ大事なのが、ももの前側の筋肉を鍛えることです。この筋肉を大腿四頭筋(だいたいしとうきん)といいますが、この筋力が落ちてくると体重を支えきれず、膝の関節に大きな負担がかかります。筋力をつけることで負担を減らすことができるわけです。
変形性膝関節症がある程度進行してしまったら医師による治療が必要です。今述べた二つは予防効果もありますが、実は既に悪くなった膝に対しても大変有効で治療の基礎になります。これに状態に応じていくつかの治療を追加するのです。
温熱療法と筋力トレーニングを組み合わせる理学療法、湿布や漢方なども含めた薬物療法も効果があります。場合によってはヒアルロン酸といって関節液のとろみの成分を注射します。軟骨がすりへってくるとゴツゴツした骨がむき出しになるので潤滑油を補充するのです。ヒアルロン酸はもともと関節内にある物質なので副作用の心配がほとんどない注射です。さびついた歯車に油をさすイメージでしょうか。さびついたまま機械を使っているとますますすりへっていきますよね。人間の体も手入れ次第です。
O脚の人は足の裏の外側を高くする装具をつけるのも効果的です。膝が悪いのになぜ足に、と思うかもしれませんが、外側を高くすることによってうち股になるよう矯正するのです。これによって関節の内側にかかる体重を分散させるのです。また膝そのものにサポーターをつけたりもします。
こういった方法でなんとかなる間はこれで頑張ります。でもどうしてもだめだったら最後は手術になります。手術は下腿、すねの骨を切ってO脚をまっすぐにする方法と、悪い部分を取って人工のものに入れかえる人工関節置換術が代表的です。どちらがいいかは年齢などによって異なりますので、専門医にご相談下さい。
千田 直(水沢市・整形外科医師) 胆江日日新聞社より