●膝(ひざ)に水がたまる病気、けが

 病院に行って、「膝に水がたまってますね」と言われたことのある人、結構いるんじゃないかと思います。膝に水がたまると、膝全体がはれぼったく重苦しい感じになり、曲げ伸ばしが不自由になります。後側の痛みが出ることが多いようです。

 「水がたまっているから抜きましょう」とこちらが言うと、「水を一度抜くと癖になるんじゃないですか」とおっしゃる方がたまにいます。

 実はこれは大きな誤解です。今回は膝に水がたまる病気について話をしたいと思います。

 骨と骨とが接しているところを関節と言います。関節というのは動くところですから、動きをスムーズにするためにいろいろなしくみがあります。骨そのものはゴツゴツしていますが、相方の骨と接触するところは軟骨という表面のすべすべした特殊な骨で覆われています。ちなみに骨付きのから揚げをしつこく食べていくと軟骨の表面をみることが出来ますね。

 関節全体は関節包といって、一つの袋に包まれています。袋の内側は滑膜という字の如く柔らかくて滑りやすい膜で内張りされています。内部は関節腔といい、そこにはとろみのある水が入っていて潤滑油と軟骨に栄養を供給する役目とをになっています。この水を関節液といいます。関節液は滑膜でつくられますが、潤滑油として必要最小限あればいいので、正常なら1〜2ミリリットルです。

 膝は体重の負担の大きい場所なので、クッションとして衝撃を和らげるためゴムみたいなものが上下の骨の間に挟まっています。これを上から見ると三日月みたいに見えるので、半月板といいます。本物を見ると月というよりは、ホタテの足みたいです。硬さはこりこりしていて、あわびそっくりです。どうも今回は食べ物の方に脱線してしまいがちですね。膝のだいたいのイメージがつかめたでしょうか。

 さて、私たち整形外科医は、はれて水がたまった関節を診ると、そこに何らかの異常が発生した、と考えます。大まかに言うと次の三つです。

 @軟骨のどこかに傷がついている。

 A関節内で炎症がおきている。

 B骨を含めて関節のどこかに傷がついて内出血している。

 関節に注射針を刺して水を抜く理由の一つは水の状態によって異常が推定できるからなのです。

 @は、お年寄りの病気である変形性関節症やちょっとした外傷、スポーツのやりすぎなどでおきます。Aは、慢性関節リウマチや痛風、細菌による感染などが考えられます。Bは、骨折や靭帯(じんたい)損傷などの大きな外傷、血友病などの特殊な病気でみられます。お年寄りの場合、それほど大きな外傷でなくても内出血していることがあります。

 おわかりいただけたでしょうか。膝に水がたまるのは結果であって、何か原因があるからなのです。水を取ったからたまりやすくなるのではなく、もともとの原因が良くなっていないから何度もたまるのです。膝の注射は痛いですが(膝の注射じゃなくても痛いですが)、診断には非常に有用なのです。

 もうひとつ水を抜く理由は治療の意味もあります。細菌感染だと、放って置けば中でどんどん細菌が繁殖して、ますますはれて痛くなってきます。もっともこの場合、もともとかなり痛いですから、患者さんは注射の痛みを気にする余裕もないようですが。また水が大量にたまった状態のまま放置しておきますと、重苦しい感じが持続して、膝の動きが悪くなります。正座が出来ない、左右の膝の伸びが違うなどといったことも起こります。

 さらに、正常ではない関節液にはいろいろな物質が含まれていて、関節の軟骨そのものに悪影響を及ぼすことも考えられます。ある地区で数十年にわたって住民の追跡調査をした研究があるのですが、膝に水がたまったことのある人はそうでない人より変形性関節症になる比率が高い、という結果が出ました。このへんにも、原因と結果はかかわってきますが、異常に増えた関節液は膝に悪さをする「悪い水」とでも申せましょう。悪い水はとっておくにこしたことはありません。

 次回は、膝に水がたまる病気の一つ、変形性関節症の話です。

千田 直(水沢市・整形外科医師) 胆江日日新聞社より