●脊柱(せきちゅう)管狭窄(きょうさく)症
脊柱管狭窄症とは耳慣れない病気ですね。最初にこの病気の特徴を述べましょう。
高齢者で、歩いたり長く立っていたりすると、足からおしりにかけて正座した時のようなしびれと痛みが出てきて歩けなくなる。座ったり前かがみになると楽になりまた歩けるようになるが、しばらくするとまた同様の症状が出てくる。歩くより自転車のほうが楽である。
どうでしょうか。自分や家族に思い当たる人がいますか。もしそうなら以下をじっくりお読みください。
人間の体に「神経」があるのはご存じと思います。大まかに言うと神経には筋肉を動かす運動神経と痛みなどを感じる知覚神経があります。いずれも脳と体の末端をつないでいます。脳から始まって背骨の中で脊髄(せきずい)となり、そこから細かい末しょう神経が木の枝のように体中に散らばっていくのです。脊柱管というのは背骨の中で脊髄が入っているところで、首から腰まで管(くだ)のようになっています。
脊柱管狭窄症というのは、脊柱管が狭窄され中の脊髄が圧迫されて神経痛を起こす病気なのです。たいがいは腰のところで起きます。腰から出た神経は足まで行ってますので、冒頭に述べたような足全体の症状になるのです。
痛みのため歩けなくなり休むとまた歩けるようになる症状を間欠性跛行(はこう)といいます。時間がたつとお湯を噴き出す間欠泉というものがありますよね。このように時間をおいて同じことを繰り返す事を間欠性といいます。間欠性跛行がこの病気の最大の特徴なのです。
脊柱管狭窄症の原因の多くは骨の変形、周辺の靭帯の肥厚などです。これらは年とともに徐々に進行してきますので、高齢者に多い理由もお分かりと思います。また辷(すべ)り症といって背骨がずれる病気がありますが、これの場合は中年くらいで発症することもあります。
診断は患者さんの話、レントゲン写真などから比較的容易です。ただ、似たような病気がいくつかありますので注意が必要です。その一番目が、閉塞(へいそく)性動脈硬化症という病気です。これは足に行く血管がつまっておきますが、やはり高齢者に多く、間欠性跛行をきたしますので紛らわしいのです。この病気については別の機会に譲りたいと思います。
その他、椎間板(ついかんばん)ヘルニアもタイプは違いますが神経痛を起こしますし、年のせい、と思っていたら脊髄に腫瘍(しゅよう)があった、なんてこともありますのでやはり専門医に診てもらったほうがいいでしょう。脊髄の状態を見るのに、以前は入院して脊髄造影という検査をしていたのですが、最近は磁気共鳴診断装置(MRI)といって外来でできて、診断価値の高い方法もありますので、便利になりました。
診断がついたら次は治療です。まず、温熱や低周波といったいわゆる電気治療が行われます。またビタミンBなどの神経の働きを良くする薬や血行を良くする薬などもある程度効果があります。ブロックといって神経の周辺に麻酔剤を注射するのも有効です。ただいずれの方法も、脊髄が圧迫されている状態が改善しているわけではないので限界があります。そうなると手術ということになります。
もちろんだれでも彼でも手術するわけではありません。患者さんの年齢、性別、仕事、運動量などが考慮されますが、症状としての目安は続けてどれだけ歩けるかです。500メートル以上歩ければよしとして、電気治療などを続けましょう。200メートルから300メートルくらいしか歩けなければ手術を考えてもいいと思います。
腰骨の手術というと文字通り腰がひけますが、大きい病院の整形外科であればたいがいやれる手術です。手術した後もほぼ満足できる結果のようです。人生もう一花と思っているが歩くのが大変で、という方は思い切って決断されてもいいのでは。
千田 直(水沢市・整形外科医師) 胆江日日新聞社より