●維持的リハビリテーション

 脳卒中を発症した患者さんの半数がリハビリテーション医療(以後リハと略す)を必要とすると言われています。急患などで受診した患者さんは、症状の程度により入院治療となりますが、早期よりリハを開始した方が好結果を生むのは明らかなことです。そして、2、3ヶ月の入院後、約80%の方は直接自宅に退院していきます。すると今度は、急性期、回復期のリハで回復した身体機能や精神機能を家庭で維持、あるいは向上への努力が必要となります。これを維持的リハと言います。

 維持的リハは障害をもちながら、家庭や社会生活に適応し、生きがいをもって生活することを目標としています。そのため、医療・保健・福祉にまたがる広範囲なものとなり、今回の介護保険制度で最も重要な位置を占めるものの一つです。

 介護保険を利用する方は当然のことながら介護認定を受ける必要があります。認定されたなら居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケア・マネージャー)によってケア・プランを立ててもらい、その中に自分の希望を注入する事が大切です。

 維持的リハのうち家庭内で行うリハを在宅リハと言います。在宅リハについても、受ける事業所、日時、場所等を希望できるのですが、現在その要請に応じきれていないのが実情です。理学療法士・作業療法士(以下リハ士と略す)によりリハが遂行され、身体機能の維持、向上が図られれば最良ですが、前記したようにその要請に十分対応できない現状なので次善の策が必要となります。それは、在宅リハを訪問医、訪問看護職、介護職が中心となって行い、特に廃用症候群の予防では看護職、介護職が中心となることです。

 当施設でのシステムは次の通りです。一人の在宅療養者に対して標準的サービスは、月に1、2回の訪問診療、週に2回の訪問看護、月に1〜4回のリハ士による在宅リハ、さらに、ケア・マネージャー、訪問看護婦による電話でのモニタリングです。リハ士はリハプログラムの作成、機能のチェックを定期的に行いますが、これは月に2回が限度であり、看護職や家族が行うリハが最も頻度が高いことになります。

 当院の手順として(患者さんの状態により変わりますが)

 @全身状態のチェック(血圧・脈拍・呼吸・体温)

 Aベットのギャッチアップ(起立性低血圧に注意)

 B上下肢の関節可動域訓練

 C端座位(ベットに腰掛け、両足を床につける体位)での足踏み、膝(ひざ)の伸屈、大腿・ 下肢の挙上

 D介助で起立、足踏み、歩行

 これらを一回の訪問で30分程度行うこととしています。C、Dが不可能な人には「ベッド上で下肢の伸屈、挙上を繰り返す」「座位で上肢・下肢を相拮抗するよう力を入れる」というリハで筋の委縮を防止します。

 事例を示しましょう。76歳男性、妻と二人暮らし。5年前より多発性脳梗塞(こうそく)で、両上下肢のまひがあり、ほぼ寝たきり状態でした。週2回の訪問看護によるリハ、月2回のリハ士によるリハを継続するうちに、座位、起立、介助歩行が3ヶ月で可能となりました。しかし、風邪で冬期に一週間寝込んだら再び寝たきり状態になってしまいました。これは完全な廃用症候群であり、再び同じプログラムでリハを再開し、現在は歩行可能となり、有意義な生活を送っています。

 この例のように廃用症候群の予防に向けてのリハは、リハ士でなくとも十分に可能なことが分かります。家族や看護職、介護職でも出来るという自信を持つべきだと思います。維持的リハの主な目的は急性期、回復期で獲得した身体機能を減退させることなく、日常生活を有意に送れるよう努力することです。どんな簡単な行動、刺激もリハになり得、これが廃用症候群の防止となります。そして廃用症候群の最終である寝たきりをつくらない方法です。

冨田幸雄(水沢市・脳神経外科医師) 胆江日日新聞社より 

 

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廃用症候群

 廃用症候群は、ごく軽微な疾患や外傷を契機としてその治療に伴う安静、活動性低下、また疾患でなくても単なる運動不足が身体機能を低下させそれ自体が身体運動を困難にし、生活の不活発化をまねくという形で悪循環を形成して進行していく。特に高齢者ではおこりやすく、いったんおこると若年層に比べて治療(回復)が困難であり「ねたきり老人」をつくる大きな原因である。予防・治療のためには、必要以上の安静をとることを避け、その状態にあわせて安全な局所および全身の活動性維持、向上をはかることが重要である。