●脳梗塞(こうそく)
前回脳梗塞の前触れである一過性脳虚血発作について書きました。脳卒中は脳血管障害ともいわれ脳を養う血管の事故で起き、脳血管が詰まって起きる虚血性病変と血管が破れて起きる出血性病変に分けられます。今回は、虚血性病変である脳梗塞について触れてみます。
脳梗塞の症状は、詰まった血管が養っていた脳がどんな働きをするところかによっていろいろな症状が出ます。一番多い症状は、同じ側の手足が動かなくなったりしびれたりする片まひ症状です。詰まった脳血管と反対側の手足がまひします。急にろれつが回らなくなり、話している言葉が分かりにくくなったり、失語症といって言葉がでなくなったり、相手の言っていることが理解できなくなったりすることもあります。手足のまひが無いのに急に新聞が読めなくなったり、右左が分からなくなったり、簡単な計算が出来なくなったり、急に物忘れをするようになることもあります。いずれも、あるとき突然症状が出るのが特徴で、朝起きたら気付いたという人も多くいます。
脳梗塞は従来、脳血栓症と脳塞栓(そくせん)症に分類されていましたが、1990年に新しい分類がとりいれられ、その臨床症状からアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、ラクナ梗塞の三つに分類されるようになりました。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳の比較的太い血管に生じた動脈硬化が原因で起きる脳梗塞で、広い範囲で脳に障害が起きることが多いです。
心原性脳塞栓症は、心臓に弁膜症や心筋梗塞、不整脈などがあり、そこに血の塊が出来それがはがれて脳の血管に詰まって(塞栓)症状を引き起こします。非常に重篤な脳梗塞になることがあります。いったん詰まった血の塊が溶けてしまうこともあり、すぐ溶けると症状が劇的に改善することもありますが、時間がたってから溶けると、壊れた脳組織に血液が流れるため出血をおこし、出血性脳梗塞となり症状が急激に悪化してしまうことがあります。
ラクナ梗塞は、脳の深い場所に起きる直径15mm以下の小さな梗塞です。小さくても出てくる症状は決して軽くなく、手足が完全にまひしてしまうこともあります。脳の細い動脈の硬化で起き、高血圧があると変化が起きやすくなります。
脳卒中が疑われる患者さんが病院にきますと、診察のあと脳のCT(コンピュータ断層撮影)、あるいはMRI(磁気共鳴診断装置)の検査を受けます。脳出血はCTですぐ診断が出来ますが、脳梗塞の場所がCTで確認できるのは、症状が出てから一日ぐらいたたないとはっきりしてきません。
MRIで特殊な撮影法を行うと、症状が出てから数時間で確認できる場合もあります。しかし脳梗塞と診断されると、治療は直ちに開始されます。現在、残念ながら脳梗塞を完全に治す治療法は確立されていませんが、脳梗塞をできるだけ小さくし、後遺症を少なくする方法は出てきています。
症状が出てから3時間以内の場合、状況によりますが、詰まった血管を積極的に広げる方法がとられることもあります。血管がさらに詰まらないように、あるいは詰まりかけた血管が詰まらないようにするため、血液を凝固しにくくする薬品が使われます。
症状が出たら早く受診することにより、脳梗塞を軽くすることも可能です。しかし、内頚動脈など太い血管が閉塞すると、病院に来たときは意識もあり、まひも軽いのに、数日で意識がなくなり呼吸が止まり亡くなる方もいます。これは脳梗塞になると、脳がむくみ(浮腫)、正常な脳の組織を圧迫して意識や呼吸の中枢を破壊するからです。この浮腫は、発病して数日から1週間ぐらいが強くなります。この期間は、症状の動きに注意が必要となります。いずれにせよ脳梗塞がおきてから慌ててもはじまりません。これを予防する事が大事です。
脳梗塞を起こし易くする主な原因として、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病があります。これらを上手にコントロールして、脳梗塞を予防する事が肝心です。また不整脈(特に心房細動)も原因となりますので、主治医とよく相談することが必要ですし、喫煙、飲酒なども原因となります。
これらに注意して、脳梗塞を起こさないように気をつけましょう。
岩淵貴之(水沢市・神経内科医師) 胆江日日新聞社より