●心筋梗塞(こうそく)

 心筋梗塞は、心臓に栄養、酸素を送っている動脈(冠動脈)が突然詰まってしまう病気で、心臓の病気の中でも最も緊急を要する重大なものです。前回に述べた狭心症は、症状が発作的に短時間で治まるものですが、心筋梗塞は同じような胸痛がさらに激しく長時間続きます。顔面は蒼白(そうはく)になり、冷や汗をかき、悪心嘔吐(おうと)を伴うこともあります。一見してこれはただ事ではないと思わせる重症感を伴います。ただ、老人の場合は強い症状を出さないこともあり注意が必要です。

 心筋梗塞は、狭心症が進行して発症するのが一般的な経過ですが、全く狭心症の症状が以前にない人に突然起こることも珍しくありません。今まですこぶる健康と思われていた人が心筋梗塞で倒れる場合もあり油断のできない病気です。特に、冠動脈硬化の危険因子、すなわち高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、喫煙、肥満、ストレス、家族的素因のある方は発症の確率が高いので気をつけてください。

 もし、心筋梗塞と思われる症状が出たらどうしたらよいでしょうか?そのときは、一刻の猶予もせず夜中でも休日でも設備の整った病院に行くことです。直ちに救急車を呼び、心臓専門医のいる病院に行ってください。心筋梗塞は、死亡率の高い病気で、しかもその死亡の大半は発症24時間以内、とくに発症2時間以内に集中しているからです。間違いだったらどうしようなどと思う必要はありません。

 病院に収容された患者さんは、発症直後の場合は再疎通療法と言いますが、詰まった血管を再開通させる治療を第一に行います。これには血栓溶解剤という薬を注入する方法(ICTまたはPTCRといいます)と血管を拡張するPTCAが用いられます。これにより心筋梗塞の大きさを最小限に食い止めることができます。

 その後24時間心電図を監視できる病室に入り、1週間くらいは厳重なモニター下に経過を見ます。心筋梗塞を起こした心臓はとても不安定で、突然危険な不整脈が出てそれが引き金になり、心室細動という致命的な不整脈に移行することがあります(一般的に心臓マヒといわれている急死の大部分はこの心室細動が原因と考えられています)。これを予防し、万一の場合、直ちに電気的除細動という治療を行えるよう万全の監視体制が必要です。この不整脈のほか、広範囲梗塞のため心臓のポンプ機能が低下してしまう場合や心臓破裂など救命が困難な合併症の発生も頻度は少ないですが、死亡の原因として重要です。

 このようなことを考えますと、心筋梗塞の急性期の治療は残念ながら私のような開業医一人の対応では到底無理で、医師、看護婦などのスタッフと設備が十分に整った病院がベストです。

 経過が順調で退院した場合、これで治療の必要がなくなったかといえばそうではありません。心筋梗塞の死亡率は、初回発作よりも再発作、更に3回目と回数を重ねるたびに高くなりますから、再発を防ぐことが大切です。そのためには定期的に通院し、冠拡張薬、抗凝固薬などの内服薬をきちんと服用し、経過を観察しなくてはなりません。危険因子のある人は、そちらの治療もあわせて行うことは言うまでもありません。これらをきちんと守り、無理のない生活をすることが心筋梗塞の予後を大きく左右するといえます。

石川 健(水沢市・循環器科内科医師) 胆江日日新聞社より