石川啄木 一握の砂 我を愛する歌 東海《とうかい》の小島《こじま》の磯《いそ》の白砂《しらすな》に われ泣《な》きぬれて 蟹《かに》とたはむる 頬《ほ》につたふ なみだのごはず 一握《いちあく》の砂を示《しめ》しし人を忘れず 大海《たいかい》にむかひて一人《ひとり》 七八日《ななやうか》 泣きなむとすと家を出《い》でにき いたく錆《さ》びしピストル出《い》でぬ 砂山《すなやま》の 砂を指もて掘《ほ》りてありしに ひと夜《よ》さに嵐来《あらしき》たりて築《きづ》きたる この砂山は 何《なに》の墓《はか》ぞも 砂山の砂に腹這《はらば》ひ 初恋の いたみを遠くおもひ出《い》づる日 砂山の裾《すそ》によこたはる流木《りうぼく》に あたり見まはし 物言《ものい》ひてみる いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握《にぎ》れば指のあひだより落つ <一部抜粋いたしました>